短編小説 真夏の雪 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

地球は今温暖化の影響を受け年々気温が上昇し真夏の最高気温は上がるばかり。南極の氷山も徐々に溶け始め島々が水没の危機に晒されている。
気温の上昇は大規模な台風を呼びF5クラスの竜巻を発生させる

だが気候の変化でおかしくなったのは人間、動物、生物だけではなかった。

登山が趣味で毎週、休日になると早朝から山を登りにいく大学生
山北あたるという男がいた。
彼には恋人はおろか女性の友人さえいない。
不器用で人との付き合いをうまく出来ないこの男は山以外では
何も出来ない”マダオ”。(銀魂から拝借)
下界では愚図でのろまな男だが山へ行くと水を得た魚の如く
活発になる。
この男の自慢できるものそれは
乗鞍、穂高、白馬、大雪山、富士山、立山、六甲山、谷川岳、北岳など日本の名峰と呼ばれる山々の7割を登頂した事。

休日の今日も暑さを避けるために信州の菩提岳まで来ていた
朝6時だというのにすでに気温は28度もあるので少々歩くだけで汗はびっしょり。
縦走用のトレッキングシューズは重く足に負担をかける。
20キロのバックパック、それと暑さが簡単に体力を奪っていく
水は余裕をもって2リットル持ってきてはいたが飲んでばかりもいられない!
渓流で水を調達することもできるのだが飲んでばかりいると
すぐへばってしまうからである。
登山道には木々の青々とした新緑が活力のシャワーを出し
野鳥の鳴き声が来た人を出迎える。
風は緑色した木々のフィルターを通って爽やかな風を吹く。

登山口では暑かった気温も山を登っていくと徐々に下がっていき流れた汗は爽快となる。
時々、落葉樹から飛んでくるカナブンやクワガタ。遠慮してほしいスズメ蜂を見ることもできる。
汗を流しながらも山を登っていくと山北の視界に何かが上から落ちてきた。虫か葉っぱだろうと考えていたが、
男の顔に落ちてきたものがあたると冷たい水に変わる。

鳥におしっこでも掛けられたのか?それともセミに・・・・
だがそうではなかった。
落ちてくる落下物は時を過ぎるごとに増えて 白く見える。
「これ、まさか雪なのか。真夏だぞ」
いくら高い山だとて真夏に雪が降ったなどと聞いたことがない
万年雪のある3000メートル級の山でさえ雪は降らない。

しかも今登ってる山は標高2400メートルなのだ。
雪が降るなどと信じられない、しかし今男の眼前に雪は降る
空を見上げると白い雪雲はないが黒い入道雲が現れ稲光が雲の中に走っていた。
こんな現象をはじめて見た山北は怖くなってしまう。
周囲は短時間で日光を遮り暗くなる。雪は大雪となり木の枝は
既に白く化粧され地面に積もるのも時間の問題である。

今から下山しても間に合わないと思い避難できそうな場所を探してみるがここにある大木は杉ばかり。
真夏だというのに急激に下がった気温のせいで吐く息は白く
服装も夏用なのでとても寒く感じる男。

夏の雪、自然の悪戯ではなく不思議な力によるものであるから夏なのに
気温は氷点下まで落ちる。この気温で夏の服装だった山北は耐えらる訳ない
雪は降り積もり周囲はすでに白銀の景色となった。

大木杉の根元で座り込む男の帽子や衣服に雪は積もり寒さで震えが止まらない。
すでに足先や指の感覚はしびれ始め自分の意思では動かない。
このままここで死を待つしかないのか。
意識がうすれゆく中で男は白い雪の世界に人型のようなものを見る
男には見えたものが現実なのか夢なのか判別する事は出来ない。
白い人型のようなものは男に歩み寄ると女の姿になっていった。

「おまえ、このままでは死にますよ!死にたくなければわたしの
言うことをききなさい。どうしますか、承諾なら首を立てに振りなさい」
長い髪をミダシ青白い顔、金色の瞳をした女の声は山に響きコダマする
女の姿は紛れも無い雪女、冬の妖精だとも言われている。
地球温暖化で雪女のような妖怪にも影響を及ぼしてしまったのである。
気温の上昇はどこかで冷やす必要があり地球は冷気を必要としていた。
それが気候のバランスなのだ。

女の尋ねた事に山北は頷いたので女は更に男に寄ると
「わたしは冬の精霊、わたしの手をとりなさい」
女に言われたとおり手を取ると男の手は感覚が戻っていくのを感じた。
女の手を掴むと凍るのではと信用できなかった山北だが、、、

女の、いや冬の精霊と手をつなげていると不思議と血管が膨張し神経を
感じられる程男の身体は回復して立てるようになる。

「ではいきましょう、わたし共に来るのです」
冬の精霊はそういうと山北の手を引っ張り森の奥へ進んでいった。
雪の積もった場所であるのに平然と進んでいく精霊。
雪の上に浮いてるかのように移動するスピードは速い。

山北は冬の精霊についていくのに一生懸命で考える余裕は無い。

山を3つ越えただろうか、眼前の視界は広がり透明感のある巨大な
城と城壁が姿を現した。
ここまで歩いてきたのに山北の鼓動や呼吸は平然としており汗もない。
男もまた足で歩いた訳ではなく精霊と同じように雪の上を浮遊してきたから
長い距離を歩いてきたと思っていない、山北には同じ景色に見えただけだった。

「これから女王へ会うために城の中へ入ります。無礼は許しません」
女王といわれても男に正体がわかるわけがなく”雪の女王”くらいしか
思い浮かばない貧相な脳の山北である。

城壁に向かって歩み寄ると門の扉は自動で開き二人はそのまま進んでいく
城の中も透明感ある壁、階段で出来ていた。大きなドアをいくつも抜けると
その先には広い部屋となり一番奥の椅子には女が座っているのが見えた。
「冬の精霊よご苦労様でした、もう下がってよい」
椅子に座っていた女が精霊にそう言うと精霊は・・。消える
「よくわが城までこられました。わたくしが氷の女王ヘラです」
「今日よりここがあなたの家、永遠にわたくしと共に暮らすのです。」



突然そんな事を言われても承諾できる筈はない。
「あの、僕はここに住むために城にきたのではありません」
冬の精霊につれられここにやってきただけだった男。確かに助けて貰った
ことは感謝しているが家に帰れると思っていた。

「嫌なのなら帰っても構いません!ただし生きて帰ることは無理でしょう」
「これから地球は氷河期に入り人類、動植物は死に絶えるからです」

菩提岳の頂上付近から降り積もった雪はすでに山系全域まで拡大し
山は豪雪地帯と化して人の侵入を阻み大雪と共に強風が吹いたせいで
吹雪となっていた。
大雪となていたのは山岳だけに留まらず平地でも降り続き人は困惑。
夏だというのに海に海水浴客はいない、稲の成長時期だというに
田んぼは雪で覆われ突然の大雪のせいで車は立ち往生して放置。
だがこれだけで終わりではない。
更に冷たい空気をもたらす大型低気圧が近づいていた。

仮に下山できたとしても山北が自宅へ帰ることは不可能なのだ。
地球全体が氷河期に突入した為どこへ行ったとしても助かる人はいない
大型低気圧が日本上空へ来たなら瞬時に凍りつくのだ。
人も動物もあらゆるものすべてが。

だが山北だけは氷の女王の祝福を受け生き延びることが出来る。
山北には選択する余地はなく城に女王と暮らすほかなかったのだ。

山北は城から出てみると深く積もった雪を見て帰れないことを悟った。
監禁されたと人は言うかもしれないが美しい女王と二人きりで暮らす
会社の上司に怒られながら安い月給で仕事をしなくてもいいのだ
衣食住にも困らない生活、男にとって理想ではあるまいか。