マイクル・コナリー完全攻略 24~30 | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

ずっと書いていなかったマイクル・コナリーについて。

水準以上のクオリティであるとはいえ、あまりパッとしない。

凡百のミステリーより全然面白いことは前提としてだが、

28作目「贖罪の街」がまぁ良し、27作目「燃える部屋」29作目「訣別」がそのちょっと下。

 

と思ってたら、30作目「レイトショー」がなんと新キャラで、女性刑事、しかもここ10年で最も面白いコナリーであった。やっぱ侮れず。

 

マイクル・コナリー完全攻略 24「転落の街」

過去の強姦殺人事件と仇敵アービィングの息子の転落事件が並行して語られるのだが、最後に絡み合うのかと思っていたら、全く別個だったので驚き、かつ不満。

 

マイクル・コナリー完全攻略 25「ブラックボックス」

ロス暴動の時に起こった、ボッシュが出会った最初の未解決事件を探るというもので、これは気合が入ってじゃん、と思わせるんだが、割と薄口だった気が。

すみません、忘れた。

 

マイクル・コナリー完全攻略 26「罪責の神々 リンカーン弁護士」

凶悪犯を釈放せざるを得なくなるジレンマや、中盤で主人公が抱く疑念について全くおざなりであるなど、最近のボッシュものにも見られる「雑さ」が目立つし、シンプルな謎解きに落ち着くのもつまらない。リンカーン弁護士ものでも下位の出来。

 

マイクル・コナリー完全攻略 27「燃える部屋」

ボッシュが未解決事件班に属してようやく、古きLAを遡る、傑作「シティ・オブ・ボーンズ」のような都市小説の趣がでてきた。懐かしのメンツに言及されるのも嬉しい。あとはもちろん細部よし話よしの流石のコナリー・クオリティ。 ただラストが慌ただしい。以前のコナリーならもう一発大ネタをかますとこだろうが、どうも軽い。無理に結末をつけ話を終わらせたような薄さ。最近のコナリーらしいといえばらしいんだけど。

 

マイクル・コナリー完全攻略 28「贖罪の街」

近年は雑さも目立っていたが、ベトナム戦争や幼児期のトラウマ、市警本部長との確執から放たれて以降、つまりハードボイルドを離れ、より警察小説に傾いたボッシュものでは「終決者たち」に次ぐ面白さ。

 

謎が次第に解かれていくサスペンスと、法手続きや市警組織との確執などの煩雑な事柄を併せて描くドキュメンタリー、それがボッシュ・シリーズの面白さだと思うが、本作は両者のバランスが素晴らしいし、犯人側の反撃、裁判劇、ハラーとの対立と道具立ても豊富。

ただアクションで事を終わらすのは少々、安易か。

 

マイクル・コナリー完全攻略 29「訣別」

大富豪から依頼を受けるシーンからはじまるザッツ・ハードボイルドとプチ・サイコサスペンスの二本立て。後者は「プチ」ながらミッシングリンクのお膳立てが整っていてミステリとして流石の出来。前者については、大組織との対決を期待しているとがっかりする展開となり、ラストに向かって失速する。

 

ただ、ボッシュのベトナム戦争ネタが再燃するのに驚いた。コニー・スティーブンスを巡るエピソードやベトナム料理を巡る父娘の口論などなかなかに感動的で、軽くはあるがシリーズ初期の作を思い出し興味深くはあった。

 

マイクル・コナリー完全攻略 30「レイトショー」

夜勤刑事でモジュラー型といえば、リーロイ・パウダー警部補だが、モジュラー型はあまり好きではなく、かのリューインとはいえ、パウダーものはちょっと辛い。しかし、コナリーのそれはそれぞれの事件の連関に工夫があり、またその連関が物語をグルーヴさせるのが素晴らしい。

 

本作もトランスジェンダーの殴打事件とクラブでの乱射事件、クレジットカードの盗難の3つが微妙に繋がりあい、繋がるたびに新たな謎が浮かび、物語が新たな様相を示す。特に、事件の謎を探るのではなく、警察内スパイ小説とでもいうべき展開になるあたりがコナリーの真骨頂。

 

家を持たず、愛犬と浜辺で暮らすハワイ出身の夜勤の女性刑事、上司との軋轢があり、夜勤へと左遷され、という個性的なキャラは、初期のボッシュを思わせる、そして今のボッシュが失ったハードボイルドな魅力に溢れている。

 

これは、2007年の「終結者たち」以来の傑作だし、コナリーの中でも相当な出来かと思う。解説を読むと、新たなヒロインとボッシュの共演作もあるらしいし、これはまたまた楽しみになってきた!