映画本ベスト part2 | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

次はインタビュー、メイキング本。日本篇。

 

映画作家自身の言葉や、映画のメイキング本は大抵面白いのだが、中でも

 

■大森一樹「making of オレンジロード急行」

中学3年生の春に観た、大森一樹のメジャーデビュー作「オレンジロード急行」はデパルマの「愛のメモリー」と並んで、私の人生を決めた一本。これはそのメイキングで、何度読み返したかわからない。

20そこそこの新人監督にも関わらず、この屈託のなさに、中坊の私は映画って素晴らしいと思ったのだった。

 

■田草川浩「黒澤明vsハリウッド」

「トラトラトラ」での黒澤の降板劇をつぶさに描き、単純にワイドショー的に面白い。

「デルスウザーラ」のメイキング「樹海の迷宮」などを読んでも、かの世界のクロサワですらこんなに大変なのね、と思う。「俺は今まで満足のいくショットが全く撮れてない」と大巨匠は泣くのだ。

黒澤本はやたらあるのだが、人間的な弱さが垣間見れる本作が一番面白いと思うがどうか。

 

■「大島渚 1960/1968」

その点、大島は幸福だ。自分の作品を語る大島の言葉は常に明晰で、論理的で、黒澤が陥った「迷宮」でさえコントロールしてしまうのだ。

 

■「加藤泰映画華」

加藤泰って講演集とか結構出てるんだが、正直、あんまり面白くなくって、だからガイド本に近い本作か、未映画化作が並んだシナリオ集が最も面白い。「好色一代女」は凄いよ。

 

■「成瀬巳喜男 演出術」

成瀬演出を俳優と脚本家へのインタビューで紐解いた本。俳優は成瀬を絶賛するが、脚本家は愚痴を垂れまくるのが面白い。

堀川弘通は「評伝 黒澤明」の中で成瀬の撮影を、「こんな状態を映画的というのだろうか」と半ば呆れているのだが、成瀬の現場はスタッフ自体はあまり面白くなかったみたいね。要するに職人さんなんだね。

 

■「市川雷蔵とその時代」

雷蔵をめぐる本というよりは、役者、監督、スタッフへのインタビューを通じて大映の50年代、60年代を活写した本。面白いに決まってる。

特に勝新へのインタビューが最高に笑える。

例えば、森一生のエピソード。「「今、何時?」「5時です」「あ、そう。じゃあカット!はい、おつかれ」1分後にはいなくなってるね」。なんて語りながら、あの「警視K」にさえ森一生を起用するんだから、相当買ってたんだろうけど。

 

■千葉伸夫「評伝山中貞雄」

加藤泰による評伝ももちろん素晴らしいが、より詳しいこちらを挙げておく。加藤泰のは叙情的、青春映画っぽいのね。

 

■竹中労「鞍馬天狗のおじさんは」

マキノの「映画渡世」は無論面白いが、アラカンの方が無茶苦茶。笑えるのはこっち。

 

■「映画の呼吸 澤井信一郎の監督作法」

深作、笠原和夫、岡本喜八、清順と、監督へのインタビュー本は山ほどあるが、澤井信一郎が最も理論的に演出を語ってくれる。

笠原インタビューは、映画ってより裏昭和史と監督への愚痴本。

 

■和田誠「新人監督日記」

「麻雀放浪記」のメイキング。澤井信一郎とのシナリオ作業から公開までを簡潔にまとめた一冊。

 

■「映画監督 神代辰巳」

増村や中川信夫、前述した岡本喜八、清順など、●●監督全映画と称する本の集大成。ヒッチコック「映画術」と並んで、ベスト・オブ・ベスト映画本ではなかろうか。

 

ちなみに日本映画監督のインタビュー、メイキングに類する本は多々あり、そのどれもが面白いんだが、唯一、小津がつまらないってのは何でだろう?

蓮實御大の評論だけが突出していて、あとは小津日記とか、川本三郎、中野翠と死屍累々。誰かちゃんとしたメイキングを出してくれないだろうか。

 

次は洋画編。