救急車が来る。しかし通る隙間などまるでない。それでも、どんどん、音は高まってくる。
すると突然、一筋の水が流れ出した。命の川。フェードアウトしたサイレンが、遠くに揺らぐ赤色灯を追いかけていった。川はもう、閉じていた。
「いちばんカッコイイ車はなんだ?」僕は、小さいときのことを思い出していた。救急車がいちばん。その次がフェラーリだと。
当時はなんとなくカッコイイからだとしか言えなかったが、今ならわかる。赤色灯が救急車の始まりを告げるとき、場が、思いが、その車を救急車へと変えさせるのだ。運転手、救急救命士、そして患者。救急車には、ひとつの変身がある。だから、赤色灯が、サイレンとともに胸に響くのだ。
気づけば僕の首筋を、一筋の川が流れていた。