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音速を超える、一本のコピー

33歳芸大生(職歴なし)が、文化放送のラジオCMコンテスト&宣伝会議賞を通して、電通へと駆け抜ける。コピーライター。現在は宣伝会議コピーライター養成講座上級コースに在籍。宣伝会議賞は、学生企画にも挑戦中。

芸大というところは特殊な場所である。授業に出なくとも、四年次までは、大概、オートで進級できる。
卒業には、詩、小説、短歌などを提出すれば、それが卒論代わりになるが、うちの学科含め、ほぼ卒業に意味がないため、卒業を選ぶ人間は少ない。優秀な人間ほど、早くに辞めていくという。
昼休み、電話が掛かってきた。
「説明会、来ないんですか?」
電話の主は、うちの学科のO君からだった。広告業界を目指している、数少ない仲間である。
聞くと、来年度のゼミ登録説明会についての話で、大学を卒業するためには、絶対に必須とのこと。
なんとなく行かないつもりでいたのだが、わざわざ電話での誘いを断るのは気が引ける。そして、自分の宣伝会議賞の提出作品を見てもらいたいという欲もあった。
傘についた露を払いながら、教室の扉を開いた。そこには、たくさんの同学科生が。O君もいた。足下のサンダルがまぶしい。おそらく、夏から同じものを履き続けている。
「いやー、もう終わっちゃいました」
ちょうど、自分が部屋に入ったところで説明会は終了したらしい。
「これなんだけど」
「俺、次の時間授業なんで、借りていってもいいですか」
「ええよ」
O君は作品を受け取ると、すぐに教室を出て行った。感想は、明日にでも聞けばいい。ぼくは手元にある説明会の資料に目を落とした。
「このゼミは、原則持ち上がりです。卒業まで同じ担当の先生になりますので、よく考えて選んでください」
あたりまえのことを書いているようで、ぼくには途方もなく寂しいことのように映った。
教室内は、数人の学生を残し、ひっそりとしていた。
「もう、進級することは、ないんやなぁ」
おぼろげに紙を見つめる。と、一瞬。雨の音がガラスをたたいた。
「冬が、来た」
教室内に残る熱気と、ガラスの向こうの木枯らしとが、芸大の全学生と僕との隠喩に思えて仕方なかった。
帰りの雨は、冷たく染みた。