「秒速5センチメートル」(2025/東宝)
監督:奥山由之
原作:新海誠
脚本:鈴木史子
松村北斗 高畑充希 森七菜 青木柚 白山乃愛 上田悠斗
岡部たかし 木竜麻生 堀内敬子 宮崎あおい 吉岡秀隆
おすすめ度…★★★☆☆ 満足度…★★★★☆
最初に予告編で映像を観た時、監督の奥山由之という名前を見て、え?大丈夫なの?と思ってしまった。
奥山といえば角川春樹とともに80年代の日本映画界の寵児として名を馳せた奥山和由を思い出してしまう世代、てっきり令和に奥山復活か?と思ってしまったが、奥山由之監督はそのご子息だと知り納得。
のちに角川書店を追われた角川春樹同様に、かつての松竹の奥山解任劇なども思い出されるが、本作は東宝配給でフジテレビが製作に名を連ねるエンターテインメント作品。
特に新海誠ファンでも何でもないし、大ヒットした「君の名は。」もいまだによくわからなくて、続く「天気の子」も結局スルーしたものの、前作の「すずめの戸締り」は見事にはまって2回もスクリーンで観た。
本作の原作となるアニメ版の「秒速5センチメートル」の存在は知っていたけれど、結局ここまで観る機会がなくて実写版の公開に合わせてフジテレビの深夜に関東ローカルでオンエアされたものをひとまず録画予約。
一応事前に予習しておいた方がよさそうなのでチェックしてからシネコンへと思いながら放置してしまって、気がついたらタイムテーブルが一日一回になってきたので腹を括って実写版からの鑑賞となりました。
でも、これで正解だったかな。
いい意味でスクリーンの映像を観ながら、逆にアニメ版を勝手に想像したりして、このシーンはアニメっぽいなとかいろいろ考察できて面白かった。
というより、先に実写版ありきでスクリーンと対峙したら、いろんなことが連想されたり、実写版ならではの気づきがあったりして、アニメ版とはまた別の世界観が勝手に広がっていったという感じかな。
この時点ではアニメ版は観ていないので、小学生時代から高校生時代を経て大人になるまでの時間軸がどういう構成になっていたのかはわからないけれど、最初に大人になった貴樹の恋人らしい女性の登場でまず「ん?」となった。
そのメガネの彼女役が木竜麻生だった。
つい最近までNHKの夜ドラ「いつか、無重力の宙で」でヒロインを演じていた彼女に興味をもっていろいろチェックしたら、映画化もされた「地震のあとで」や過去の「絶対零度」シリーズにゲスト出演していた回を偶然目にしたり、すっかり気になる存在になってしまった。
しかも「いつか、無重力の宙で」では、かつての高校の同級生たちが大人になってあの頃の夢だった人工衛星を飛ばすというプロジェクトがメインになっていて、今回の実写版「秒速5センチメートル」でも人工衛星ボイジャーのことや種子島でのロケット打ち上げなどが背景として描かれていて、それだけでなんかワクワクしてしまった。
本編は大人になった貴樹の回想という形で、小学生時代の明里との出会いが描かれ、明里の転校で二人が離れ離れになった中学時代の雪の中の再会をひとつのクライマックスに、すれ違い続ける二人の時間が丁寧に描かれていく。
途中に挿入される種子島に引っ越した貴樹の高校時代のエピソードの唐突感は否めないけれど、貴樹に思いを寄せるサーファー女子を森七菜が好演して印象に残る。
ここでドラマ好きなら森七菜がヒロインを演じた「真夏のシンデレラ」という王道の月9作品を思い出すはず。
作品としてはあまり芳しい評価はされなかったけれど、あのドラマでは海辺の食堂を切り盛りする一方で、サーフィンではなくサップ教室のインストラクターという役どころだった。
その森七菜演じる女子高生花苗の実姉美鳥を宮崎あおいが演じ、大人になった明里役で高畑充希と女優陣の顔ぶれも華やかだ。
そして少女時代の明里役の白山乃愛は最年少東宝シンデレラグランプリの逸材で、小学生から中学生へという少女時間を見事に演じ切っている。
特にクライマックスの一つとして用意される雪の岩舟駅の佇まいが素晴らしい。
ほんの少し女子の方が男子より大人に近づいているこの世代特有のビビッドなビジュアルをしっかり映像に焼きつけたのは、音楽MV等での活躍が顕著な奥山監督ならではか。
しかし大雪の岩舟とはいえ、同じ両毛線沿線の住人としてはあそこまで雪国ではないよなと思うし、都内からの移動でそんなに遠いというイメージもない。
時代背景がアニメ版と同じ2000年代ということもあるけれど、新宿からなら湘南新宿ラインで小山までは一本だし、今ならあれだけ遅延する前に計画運休になってしまうだろう。
まあ確かに小田急沿線から中学生が移動するには大冒険だったかもしれない。
主人公の貴樹を演じるのは松村北斗。
朝ドラの出演などもあってすっかり実力派俳優としての顔が板についてきたのは頼もしい。
もうひと言が言えない、あと一歩が踏み出せない、そんなどこか優柔不断なキャラクターも嵌った。
実写版のオリジナルとなっている現代パートのプラネタリウムをめぐるエピソードでは、これでもかというくらいに劇的にすれ違い続ける貴樹と明里。
その後の短い映像で明里の明るい未来がしっかり明示される中、今も踏切の向こうにその影を追ってしまう貴樹の思いだけが取り残される。
届きそうで届かない5センチメートル先の未来、貴樹と理紗もまたあと1センチが足りなかったけれど、結局人生なんてそんなことの繰り返しなんだろうな。
自分自身が今になって振り返るといくつかの甘酸っぱい思い出とともに、あと少し届かなかったその距離さえもどのくらいあったのかも曖昧だ。
ひとつ気になったのはこの作品はデジタル撮影した映像を改めて16ミリフィルムに焼きつけているそうだが、逆に映像そのもののクリアさが失われて全体的に映像そのものが少し重くなったような気がしてならなかった。
アニメーションの背景描写などを実写映像に近づけることで心象風景を描き出す新海誠ワールドのようなクリアな映像を期待した部分もあったので少し印象が変わった。
あとはナレーション風も含めて貴樹がぼそぼそ話すシーンも多くて一部聞き取りにくい感じもあったかな。
アニメ版はこのあと観る予定。
MOVIX伊勢崎 シアター3



