「ソイレント・グリーン」 デジタル・リマスター版
“SOYLENT GREEN”
(1973/アメリカ/2024:コピアポア・フィルム)
監督:リチャード・フライシャー
原作:ハリー・ハリソン
脚本:スタンリー・H・グリーンバーグ
チャールトン・ヘストン エドワード・G・ロビンソン
リー・テイラー・=ヤング チャック・コナーズ
おすすめ度…★★☆☆☆ 満足度…★★★☆☆
子どもの頃にテレビで外国映画を観て衝撃を受けた最初の作品は何だろう?
当たり前のように吸血鬼ドラキュラや怪物フランケンシュタインなどといった怪奇映画だったと思うけれど、その作品が扱っているテーマやストーリー展開でドキッとさせられたのはやはり「ソイレント・グリーン」ではないだろうか。
その「ソイレント・グリーン」がデジタル・リマスター版としてリバイバル公開されるのを知ったのはつい最近のこと。
映画の公開情報サイトを巡回していてこの作品の名前を見てハッとした。
「ソイレント・グリーン」が発表されたのは1973年でアメリカでの公開から一ヶ月後には日本のスクリーンにかかったようだ。
当時の自分はといえばもちろん映画少年以前の時代。
ちなみに初めてスクリーンで外国映画を観たのは1975年に日本で公開された「タワーリング・インフェルノ」(1974)
調べてみたら「ソイレント・グリーン」が日本のテレビで初めて放送されたのは1978年4月21日の「ゴールデン洋画劇場」だったようだ。
自身の年齢とかを考えると多分この時に観ているような気がする。
いずれにしてもその後何度かは観ていると思うし、近年になってCS放送などでも観たかもしれないが、そのあたりの記憶は曖昧だ。
何よりもこの作品の肝となるのはラストに向かっていく中で明らかになる衝撃の展開。
今でこそそれほど驚かないかもしれないが、今から40年以上前に近未来として描かれたこの映像は当時の映画少年にはかなりのインパクトがあった。
あとから今回のリバイバル上映の予告編をチェックした。
<これは2年前の地球を描いた映画だ>
そういうことだ。
あの時代「2001年宇宙の旅」(1968)が話題になり、続編として「2010年」(1984)も公開された。
未来がどんどん過去になっていく現実。
かつてのSF作品で多く見られた空飛ぶ車も宇宙旅行も実際にはいまだ実用化に至らない。
そういえば「ブレードランナー」(1982)の舞台は2019年だし、あの「ターミネーター」(1984)は2029年の設定だからあと5年後の話だ。
もっとも自分たちの世代だと1999年のノストラダムスの大予言が過去になった時点で、未来に抱くイメージそのものがずいぶん後退している。
「ソイレント・グリーン」の舞台は2020年。
爆発的な人口増加により食糧難となった世界では、階級社会がさらに進み、貧しい者たちは街に溢れ政府の配給を求めて列をなす。
そんな街ではソイレント社が作る合成食品を求めて群れる人たちがいる。
ソイレント・イエローにソイレント・オレンジといった食品は今でいうカロリーメイトのような固形食糧で、ソイレント・グリーンは薄いチップス状の食品だ。
そんなある日ソイレント社の幹部サイモンソンが何者かに殺されるという事件が発生する。
担当したソーン刑事は捜査のためサイモンソンの自宅を訪れるがそこで特権階級の生活を知る。
彼は美しい美女たちを家具として部屋に置き、ボディーガードのタブを雇って生活していた。
そのタブは物取りの犯行だと決めつけるが、ソーンは巧妙に仕掛けられた殺人事件だと見抜く。
この作品においてはこうした殺人事件に絡むソーン刑事の捜査は薄っぺらくて、サイモンソンの家具の一人である美女シャールと戯れたり、中盤はかなりだれてしまう。
終盤になってソイレント社の製造工場に乗り込んでその真相をつかむわけだが、すでにストーリーは分かって観ているので特段の驚きはない。
それよりもいま改めて2020年の生活描写を見ると違和感だらけなのが面白い。
ソーンが住むアパートはまるで安宿のような間取りだし、ベッドのわきのテレビはブラウン管でチャンネル切り替えもボタン式。
街に出て電話をかける時もいわゆる携帯端末はなく、プッシュボタンの電話で回線も交換士経由で繋ぐタイプ。
上流階級の部屋で興じるコンピューターゲームも巨大なスタンド型のアーケードゲーム。
その一方で同居の老人ソルが自らホームといわれる安楽死施設に出向くシーンは、今回改めて観て思い出したというか、かつての自然豊かな地球の映像を見ながらベートーヴェンの田園交響曲の音色に包まれながら息を引き取るという映像は衝撃的でもあった。
日本でも安楽死が合法化された未来を描いた「PLAN 75」が話題になったが、残念ながら今もって未見のまま。
あの時代も今も、人間にとっての尊厳死というのは、永遠に答えの出ないテーマなのだろうか。
公開当時のチャールトン・ヘストンはまさに人気絶頂期で、それまでに「十戒」「大いなる西部」「ベン・ハー」「猿の惑星」「ハイジャック」等、スペクタクル映画から西部劇さらにSFにパニックものまで、まさにオールジャンルで代表作をものにした稀有な俳優ではないだろうか。
あの時代のハリウッドらしい、どうみてもインキにしか見えない血のりはいつ見ても笑えてしまう。
ボディーガードを演じたのはチャック・コナーズ。
懐かしい顔だと思って調べてみたら、役者になる前にプロ野球とプロバスケットの選手としてプレイしていたらしい。
なるほど当時としてもかなり大柄に見えたのも納得だ。
ちなみに今回は小山まで観に行ったが、近日中には高崎のミニシアターでも上映予定。
もう一度観に行くかどうか、その時に考えよう。
小山シネマロブレ シネマ1