「ゴールド・ボーイ」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

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「ゴールド・ボーイ」(2023/東京テアトル=チームジョイ)
 
 監督:金子修介
 原作:ズー・ジンチェン
 脚本:湊岳彦
 
 岡田将生 羽村仁成 黒木華 星乃あんな 前出耀志
 松井玲奈 北村一輝 江口洋介
 
 おすすめ度…★★★★☆ 満足度…★★★★★
 

 

 
開巻直後にまるで火サスか土曜ワイドみたいな映像。
沖縄の青い海から断崖絶壁の突端へというカメラワーク。
いきなりガッチリ視線がスクリーンに釘付けになる。
 
沖縄のリゾート会社の入り婿である岡田将生演じる東昇が義理の父母を殺害する衝撃のオープニング。
 
その現場を偶然デジカメで撮影してしまった中学生3人組。
幼なじみの朝陽と浩の男子二人と親の再婚で浩の義妹となった夏月。
 
甘酸っぱい初恋の1頁が始まると思いきや、秀才の朝陽がその映像で御曹司らしい昇を脅迫することを提案する。
 
3人はそれぞれに家庭の事情を抱えていて、そのすべてを解決するには大金が必要だった。
 
実は昇はさらに綿密な計画を立てているサイコパスなのだが、朝陽はそれを上回る巧妙な駆け引きで対峙していく。
 
こうなるとどちらもとてつもなく悪いヤツらで、昇がサイコパスなら朝陽はさらに輪をかけた悪漢少年だ。
 
4人は虚々実々どころか、ある意味正面切って、悪には悪で、毒には毒で、徹底的に知恵を巡らせる攻防が沖縄の青い海で展開される。
 
もうこれは、ドキドキはらはらを通り越して、スクリーンに前のめりになるような面白さで、最後の最後までテンポよくストーリーが続いて飽きさせない。
 
監督は個人的に大好きな金子修介。
 
金子修介といえば日活ロマンポルノ出身で、80年代の監督デビューから現在までコンスタントに作品を送り出している稀有な存在。
 
同時期に先に注目された若手監督たちも多いけれど、森田芳光・相米慎二・那須博之・池田敏春・崔洋一といった監督たちはすでに鬼籍に入り、根岸吉太郎や中原俊や滝田洋二郎といった面々は近年は寡作な映画監督になっている。
 
自分が最初にスクリーンで観た金子修介監督の作品はそんなロマンポルノ時代の傑作「いたずらロリータ 後からバージン」(1986)で、後に是枝裕和監督で話題になった「空気人形」(2009)よりも20年以上前に同じテーマで映画を撮っていることになる。
 
その後メジャー系のコメディ作品などを経て、1988年には個人的には今でも日本映画のベスト5に入る「1999年の夏休み」が公開され、同じ年にはラストイヤーとなった日活ロマンポルノで「ラスト・キャバレー」も監督した。
 
以降はアイドル系女優たちが主演するメジャー作品を毎年のように監督し、あの平成ガメラ三部作が大ヒット、さらにゴジラミレニアムシリーズやデスノートシリーズなど話題作を次々と手掛けてヒットメーカーとして名を馳せる。
 
一方で「百年の時計」(2012)や「ジェリー・フィッシュ」(2013)といった作品まで幅広いジャンルのエンタメ映画を撮り続けている。
 
近年は一時期よりメジャー作品は減ったけれど、コンスタントに映画を撮り続け、前作「百合の雨音」(2022)は日活ロマンポルノ50周年のROMAN PORNO NOWプロジェクトとして公開された。
 
残念ながらこの「百合の雨音」はなかなかタイミングが合わなくて結局観られずがっかりしていたところ、今回の「ゴールド・ボーイ」公開のニュースが飛び込んできた。
 
先に公開された遠方のシネコンの上映期間には間に合わなかったけれど、今回ようやく地元のミニシアターにかかることを知り、その初日の上映回に駆けつけた次第。
 
それだけ楽しみにしていたら、逆にちょっと物足りないとか、期待値上げ過ぎたみたいなこともあるだろうが、この作品に関しては想定していた以上の面白さがあってさらにその上を超えてきたので大満足。
 
主演の岡田将生は「ドライブ・マイ・カー」でもそうだけれど、最近の役柄がかつての好青年から一歩踏み込んだくせ者になってきていて面白い存在だ。
 
そしてやはり記憶しておきたいのは、少女夏月を演じた星乃あんなの佇まい。
 
昔からスクリーンで少女を撮らせたら他の追随を許さない金子監督の面目躍如というか、今どきの女子のキラキラしたところをすべて封印したその存在感が、この作品にまた別のワクワク感を添えていたと思う。
 
ただずっと彼女のどこか陰のあるそして笑顔のない佇まいに既視感があって、それが子役時代の福田麻由子だとすぐに思いついたのだけれど、他のレビュー等を読んでも同じことを感じた人も多いようだ。
 
ちなみに福田麻由子はずっと気になる存在で、成人してからの舞台出演となる劇団た組。第13回公演「まゆをひそめて、僕を笑って」で初めて生の彼女を見たけれど、少女時代のイメージとほとんど変わらない姿に感動すら覚えた。
 
星乃あんなという名前、覚えておいて損はなさそうだ。
 
冒頭のシーンのあとのタイトルクレジットが「黄金少年」そしてエンドクレジットで「ゴールド・ボーイ」の刻印。
 
オリジナルは中国のドラマだという。
映像作品におけるオリジナリティという意味では、すでに韓国映画や台湾映画に先んじられている日本映画の現状は言うまでもない。
 
相変わらずライトノベルやコミックの実写化ばかりに傾倒している現状の中で、前述の「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督や前作「すずめの戸締り」でも大ヒットを記録した新海誠監督のようなオリジナリティを持った映像作家も検討している。
 
そんな中でベテランの金子修介監督がいまもなおこうした挑戦的な作品を撮り続けていることはやはり特筆すべきことなのだと思う。
 
久々に映画を観終わってから「これはすごい!」と唸った。
 
 
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