「風よ あらしよ 劇場版」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

MCNP-media cross network premium/RENSA

音楽(Music)・映画(Cinema)・小説(Novel)・舞台(Play)…and...

出会いの連鎖-RENSA-を求めて。

メディアの旅人はあなたです。

「風よ あらしよ 劇場版」(2023/太秦)

 

 監督:柳川強(演出)

 原作:村山由佳

 脚本:矢島弘一

 

 吉高由里子 永山瑛太 松下奈緒 美波 玉置玲央 渡辺哲

 山田真歩 朝加真由美 山下容莉枝 石橋蓮司 稲垣吾郎

 

 おすすめ度…★★★☆☆ 満足度…★★★☆☆

 

 

 
ここのところ、明治から大正時代にかけての実話をもとにした作品を続けて観ている気がする。
同時にその時代に関係する過去のドラマとのリンクも見えてきて少し関心が出てきた。
 
以下、関連する名前や事件を先に並べてみる。
年号はその人物の生まれた年もしくは事件が起こった年。
 
広岡浅子:1849年(嘉永2年)…朝ドラ「あさが来た」主人公。
平岡らいてう:1886年(明治19年)…「風よあらしよ」。
村岡花子:1893年(明治26年)…朝ドラ「花子とアン」主人公。
伊藤野枝:1895年(明治28年)…「風よあらしよ」主人公。
知里幸恵:1903年(大正11年)…「カムイのうた」主人公。
 
福田村事件:1923年(大正12年)…映画「福田村事件」
甘粕事件:1923年(大正12年)…「風よあらしよ」
 
ちなみに「あさが来た」にも学生時代の平塚らいてうが登場していて大島優子が演じていた。
 
個人的には幕末から明治維新にかけての激動の日本史は昔から苦手というか、登場人物も多くてそれぞれが属する位置関係がいつも混乱する。
 
一方で近代日本史の中でその後の太平洋戦争という大きな時代の渦があまりにも巨大すぎて、年数も短いこともあって大正時代前後のことはあまり映像作品として語られることが少ないように思う。
 
昨年の「福田村事件」であの関東大震災に起こったセンセーショナルな事件が映像化されたことで、今まであまり語られることのなかった言うならば日本の裏歴史の部分にスポットライトがあたった。
 
閑話休題。
 
映画「風よあらしよ 劇場盤」は2022年の秋にNHKBSで3話完結で放送されたようだ。
自宅はBS放送は観られないのでもちろんこの作品のことは映画の予告編を観るまで知らなかった。
 
大正時代に活躍した女性解放運動家である伊藤野枝の生涯を描くこの作品。
女性解放運動というとなかなか男性目線だと難しい部分もあるのだけれど、野枝が学生時代に影響を受ける存在が名前はよく耳にする平塚らいてうというのは導入部としてはよかった。
 
親に勝手に決められた結婚を振り切って平塚らいてうを中心に女性思想家たちによって立ち上げられた『青鞜社』に入社する野枝。
彼女が感銘を受けた<元始、女性は太陽であった>というらいてうの言葉は耳にしてはいるが、これまた男であるがゆえにその意味することはよく分からない。
 
時代が進むと平塚らいてうが第一線を退き、仲間たちも去った『青鞜社』を伊藤野枝が一人で運営するが結局破綻する。
 
ここで野枝の内縁の夫として大杉栄という無政府主義者が登場するのだが、その名前こそ見聞きしてはいるものの、彼がどういう人物かということはこの作品を観るまで知らなかった。
 
彼が傾倒していったという社会主義や「オッペンハイマー」でも描かれた赤狩りなど、後の共産主義に関係する思想主義についてはここでは考えないでもいいだろう。
 
むしろ野枝の女性解放思想から自由恋愛主義へという一連の流れがいまひとつ描き切れていないのは、もともと3話完結のドラマがベースとなっているせいか。
 
ただ冷静に考えると野枝の行動は自由の名のもとに、好き勝手に生きているようにも見えてしまうのは残念。
 
思想的なテーマがベースになるかと思いきや、最初に結婚する英語教師の辻潤にしろ、後に運命を共にする大杉栄とのロマンスにしろ、そのあたりの色恋沙汰や正妻と愛人の対立関係などは正直どうでもいいと思ってしまう。
 
吉高由里子は前出の「花子とアン」でヒロインを演じており、現在も平安時代を舞台にした大河ドラマ「光る君へ」にのちの紫式部役で主演している。
 
そんなこともあってか、時代物でありながら今どきのビジュアルであるはずの吉高由里子のイメージが不思議としっくりくる。
 
最終的に甘粕事件で大杉と共に横死する野枝。
その背景には関東大震災がきっかけとなる自警団による各地での朝鮮人弾圧と虐殺事件が横たわっている。
 
そんな事件のひとつを描いたのが昨年の映画「福田村事件」なのだけれど、あの作品の中で朝鮮人と間違われて殺された行商人を演じた永山瑛太が、本作でも大杉栄を演じて時代の闇に葬られているのは偶然とはいえ何とも言えない余韻を残す。
 
この時代の日本史の闇の部分についてもう少し知りたくなったが、しばらくこういう重い映画はいいかな。
 
 前橋シネマハウスシアター0