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「哀れなるものたち」

 “POOR THINGS”

  (2023/イギリス/ウォルト・ディズニー・ジャパン)

 

 監督:ヨルゴス・ランティモス

 原作:アラスター・グレイ

 脚本:トニー・マクナマフ

 

 エマ・ストーン マーク・ラファロ ウィレム・デフォー

 ラミー・ユセフ ジェロッド・カーマイケル

 

 おすすめ度…★★☆☆☆ 満足度…★★★☆☆

 

 
前回の「ボーはおそれている」にドはまりした勢いではないけれど、もう一本気になっていた長尺作品を地元のシネコンの上映最終日に滑り込みで鑑賞。
 
とはいえ、これはなかなかの修行だった。
 

現実と悪夢の連鎖のような「ボーはおそれている」に対して、この「哀れなるものたち」はリアルな悪夢そのものという印象。

 

前者が全編カラーで描かれた総天然色ファンタジーであるのに対し、後者はモノクロとカラーが混在することで逆にその時代のリアリティ感に没入させる。

 

そこに登場するのが造詣からフランケンシュタイン博士を彷彿とさせる外科医バクスター(ゴッド)とリアルな解剖シーン。

しかも無造作に取り出される内臓はカラーで映し出されたりもするのでそこで虚実が混とんとしてくる。

 

本作の時代背景は19世紀のヴィクトリア朝時代のイギリス。

映画ではドラキュラ伯爵やフランケンシュタイン博士などで知られるいわゆるゴシックホラーやスリラーが過去から現代まで連綿と作られてきた。

個人的には「エレファントマン」(1980)や「ヴァン・ヘルシング」(2004)などがすぐに思い浮かぶ。

 

死んだ母親の母胎から取り出された胎児の脳を移植するという禁断の手術で生まれ変わったベラ。

肉体だけ成熟した女性ながら心と知能は赤ん坊のままの彼女は、ゴッドとその助手ゴドウィンに見守られながら、見るもの感じるもののすべてを吸収し成長していく。

 
やがて外の世界に興味をもった美しきベラは性の喜びを知り、彼女の虜になった弁護士ダンカンと駆け落ちしてリスボンへと旅立つ。
 
ベラの成長に合わせてストーリー上の背景が次々変わっていくのは「ボーはおそれている」と同じ構成だが、ベラの行動によって局面が変化していくだけなのでこちらはそれほど混乱はしない。
 
ストーリーはベラの性の目覚めから女性の自立や解放、最終的に人間とは何かという大命題を描いていき、それは衝撃のラストシーンに結実していく。
 
それにしてもエマ・ストーンの脱ぎっぷりというか、彼女のこれまでのキャリアを振り返っても、こういうキャラクターを演じるようになるとはちょっと意外だった。
 

個人的にその存在を意識したのはリブートされた「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのヒロイン役だと思うけれど、その後「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞主演女優賞を受賞した時もあまり印象に残るタイプではなかった。

 

むしろ直近の「クルエラ」の怪演で改めてすごい女優だなと実感したくらい。

たぶんビジュアルに派手さがないイメージだったり、いわゆるアイドル女優というタイプでもなかったこともあって、その演技力に気づくタイミングが遅れたのかなと思う。

 

本作のヨルゴス・ランティモス監督とは「女王陛下のお気に入り」ですでにタッグを組んでいるけれど、残念ながらこの作品はチェックしていなかった。

 

怪演といえば今回も癖のあるゴッドというキャラクターを演じたウィレム・デフォーが異彩を放つ。

「プラトーン」で注目された彼のイメージとしていまだに強く刻まれているのは、最初のメジャー作品となる「ストリート・オブ・ファイヤー」のストリートギャングのボス役の圧倒的なビジュアル。

 

そういえば彼もまた最初の「スパイダーマン」シリーズで敵役を演じていたし、ダンカンを演じたマーク・ラファロはマーベル映画のMCUシリーズでエドワ・ド・ノートンから引き継いでハルク役を演じていた。

 

そうか、クルエラとゴッドとハルクの競演。

そりゃあ怪異なる世界になるわな。

 

そもそもが長尺でエグイ映像満載で…なかなかお薦めとは言い難い作品で観る人を選ぶと思うけれど、怖いもの見たさでという方はぜひ劇場へ。

 

 ユナイテッド・シネマ前橋 スクリーン9