「彼女は夢で踊る」(2019/アークエンタテインメント)
監督:時川英之
脚本:時川英之
加藤雅也 犬飼貴丈 岡村いずみ 横山雄二 矢沢ようこ
おすすめ度…★★★☆☆ 満足度…★★★★★
他にも同じようなタイムテーブルで観たい作品が各シネコンにかかっていて、正直ギリギリまで迷っていたものの、結局時間的に間に合うこの作品をチョイスしましたが、大正解でした。
ちなみに他に迷っていたのは「ダニエル」と「おもいで写真」の二本。
広島の薬研堀に実在したストリップ劇場を舞台に、若い日にそこで出会った踊り子に恋した劇場主が、劇場が閉館を迎えるその日を前に、過去の思い出たちと不思議な時間を共有する。
劇場主の社長に加藤雅也、その青年時代を犬飼貴丈、青年時代の彼が恋する踊り子サラと彼女によく似たメロディを岡村いずみが演じる。
さらに劇場の閉館興行に駆けつけるベテランストリッパーようこ役にグラドルから転身して現役ストリッパーとして活躍する矢沢ようこ。
彼女が劇場の最終ステージで松山千春の「恋」に乗せて踊るパフォーマンスはまさに昭和ノスタルジーそのもので感動すら覚える。
自分は日活ロマンポルノの最後の数年間に間に合った世代。
こういう映像を見ると相米慎二監督の「ラブホテル」で使われた山口百恵の「夜へ…」がすぐに思い浮かぶ。
時代とともに風営法が整備され、アダルト業界もAVの時代を経て今はネットにもエロスの世界が広がり、大枚をはたいてストリップを観ることもなくなった。
学生時代に友人たちと新宿で飲んだ後に歌舞伎町に繰り出し、生まれて初めてストリップを観に行った。
今はなき新宿TSミュージックホールだったと思うが、週末だったので深夜にもかかわらず大入り満員で、それこそ人垣の隙間からステージを観るという感じだった。
その時はエロスよりもただただその熱気に圧倒され、気がつけば早朝の新宿の街に吐き出され、人生初の始発電車を待つという経験もした。
まだアダルトビデオもネットも何もない頃だったから、生身の裸体を目の当たりにすることで初めてエロスに触れることができた。そういう意味ではいい時代だったと思う。
20代の頃には地元にも有名な某ストリップ劇場があって何度か足を運んだことがある。
ただそこはいわゆる客席をステージに上げてのまな板ショーや個室サービスなどもやっていて、何度か警察の摘発を受けて結局つぶれた。
あるいは20代の後半には毎晩のように仕事終わりに飲みに出ていて、行きつけのスナックでアルバイトスタッフの20歳の女の子と知り合い、週末のたびにドライブに行ったりもしたけれど、恋は叶わずガールフレンドのままだった。
そういえば映画好きの彼女と当時はテアトル西友だったこの映画館によく通ったりもしたな…。
一本の映画を観ただけで、自分自身のあの頃が次から次へと甦ってくる。
あれは夢だったのか?現実だったのか?今となってはどっちでもいい、ただ甘美な思い出として残っているのは間違いない。
大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館~キネマの玉手箱」の中で「映画は過去にも未来へも行ける」ということが語られる。
この作品はまさに95分のタイムマシンだったのかもしれない。
サラとメロディを演じた岡村いずみが素晴らしい。
海辺でのダンスシーンがしばらく目に焼きついてしまいそうだ。
前橋シネマハウス シアター0