大きな桜の木が見えてきた。
あれはワタシとパパの約束の桜の木。
懐かしいな、お花がいっぱい咲いてる。
ワタシ、このピンクの花びらが大好きなの。
ありがとう、お母さん、ワタシをここに連れてきてくれて…。
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今年も桜の季節がやってきました。
私は桜が満開になったら、ヒナタをここに連れてこようと決めていました。
実は去年、佐伯さんとあの病院の駐車場で会った時、佐伯さんが話してくれたのです。
毎年、この桜が満開になったら、この木をバックにヒナタの写真を撮っていたことを。
私たちにヒナタを渡す前日にこの木の下でヒナタと一緒に過ごしたことを。
だから、ヒナタと佐伯さんにとってこの場所は特別な場所なんだって。
私は、この桜をバックにヒナタの写真を撮ろうと思います、佐伯さんがそうしていたように。
そして私はこれからも毎年ここに来ます、ヒナタを連れて…。
佐伯さん、見てくれていますか?
ヒナタを連れて来ましたよ。
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パパ、あの日お空に帰る前にワタシに会いに来てくれたよね。
パパはワタシにさよならって言った。
でもワタシ、こう言ったよね。
「パパ、違うよ、さよならじゃなくて、また会おうねだよ。」
パパはちょっと照れ臭そうに笑って、そのままお空に帰って行った。
お別れはほんの一時のこと、魂には永遠の別れなんてないんだよ。
ワタシたち動物はそのことをずっと前から知ってる。
だからパパとはまた会えるの、必ず…。
でもね、パパ…
それでもワタシ、時々寂しくなる時がある。
そんな時は、この桜の木の下でパパにくっ付いてたこと思い出すの。
するとね、とっても温かい気持ちになるんだよ。
あぁ、パパが会いに来てくれてるって感じるの。
パパは約束守ってくれてる。
ありがとう、パパ。
今日、ここでパパにワタシの気持ちを伝えることができて、すごく嬉しい。
お母さんがここに連れて来てくれたおかげだね。
今のお母さんもお父さんも優しくしてくれてるよ、だから安心してね。
ヒナタは幸せだよ…。
あっ、お母さんが呼んでる。
ワタシの写真を撮ってくれるんだって、まるでパパみたいだね。
しっかりポーズ決めないとね。
それじゃ、パパ、またね!