なぜ人は未知なるモノを求め続けるのか。
なぜ世界は輝き、動き続けるのか。
なぜ自分はここに生きているのか。
その答えを探しに、僕はありったけの現金を崩して北の大地へ向かう切符を掴んだんだ。
人生二度目の北緯45度線を突破し、まだまだ北上を続ける。
辿り着いたのは一面、草原の世界。
牧草を食む乳牛達を横目に、ヤツの潜む聖域へと足を踏み入れる。
赤褐色に濁るゆったりとした流れは、僕の狩猟本能を呼び覚ましたかに思えたが、初日はヤツは姿を見せなかった。
しかし、かけがえのない出会いをもたらしてくれた。はるばる1500kmの距離を跨いで出会った友。それはきっと地球に生命が誕生したのと同じくらいの奇跡なんだろう。
彼のガレージで、お互いの野望をぶつけ合い、僕は希望を託された。
翌朝
異国からの旅人と、慣れない言葉を交わす。全身を使って思いを伝え、僕も彼の思いを受け取った。
笑顔で見送ってくれた彼の人生に、僕がほんの少しでも足跡を残せたことが嬉しかった。
そしてふたたび川に立ち、僕はキャストを続ける。
一投一投、全身全霊で夢を乗せた弾丸を打ち込んだ。
弾丸であるからには、必殺の一撃でなくてはならない。死を超える芸術でなくてはならない。敵をも魅了する魔弾の射手。狂っているのはヤツか、それとも放ち操る僕自身なのか?
その後も果てしない草原を彷徨う。
世界はこんなにも美しく
驚きと希望に満ちた惑星を太陽が照らし、やがて闇がすべてを飲み込む。
それは僕が生まれるずっと前から繰り返され、これからも続いていくんだろう。
結局この日も、ヤツは姿を見せることはなかった。
一日中歩き回って疲れた体に染み込む糖分。今この瞬間に飲むコーヒーの旨さがあなたに分かるだろうか?二日前に火が付いたままの本能を鎮め、明日の作戦を練る。今までの経験をフルに使って考え、エリアを絞り込んだ。
「あそこしかない。」
そうつぶやいた僕を、静寂がわずかな睡眠へと誘った。
そして翌朝。というか3時間後。北の朝は早い。3時半にはもう明るくなるだろう。今、出発しなくては。
昨日の宣言通り、「あそこ」に暗いうちから入った。が、準備をしている僕の横をアングラーと思しき一台の車が通り過ぎていく。
「やられた」
一瞬そう思ったが、後にこれが僕の運命を左右することに。
彼と言葉を交わし、僕の読みが外れていたことを知る。そして、僕がマークしている3つのエリアでどこがいいか聞いてみた。それぞれA、B、Cとすると、帰ってきた答えは最も遠いC。だがしかし、時間の残されていない僕にはそこに賭けるしかない。
一度拠点へ戻って体力の回復に努め、一番ベストと思えるタイミングでCへと入る。準備をしていると、またもや一台の車が。降りて来たのは‘彼‘だった。せっかくなので、一緒にポイントへ向かう。
2人で投げ続け、陽も傾いて来た頃、ようやく、夢にまで見たあの感触が手に伝わってきた。
すかさず僕は腰を落とし、ロッドを引くようにカウンターアタックを叩き込む。
「ドン・・・・・・・!!」
すかさず彼が叫んだ。
「イトウだ!!」
そこからはよく憶えていない。
次に目の前が認識できるようになった時、ダッシュで駆け付けてくれた彼のネットには、写真でしか見たことのない魚が横たわっていた・・・・・!!
人生で初めて手にしたイトウ(Parahucho perryi)。
決して自慢できるサイズではないのだろうが、僕の中では1つの夢が叶った瞬間。感情を爆発させ、大空へ向け雄たけびをあげる。嬉しい。たった一匹でこんなにも嬉しいなんて。
だがそれは果てしない夢への序章に過ぎなかった。とんでもない世界を知ってしまった。
80cm、90cm、そしてメーターオーバー。この地には、今もカムイが住まう聖域があるのだ。
またいつか神へと挑むその日には、僕の狩猟本能が今にも増して燃え盛るのだろう。
この旅で出会った最高の仲間達と、大自然に感謝。