「うたかたの日々」ボリス・ヴィアン(早川書房)を読了しました。
フランス小説ですね。
この小説家の使う表現は、とても特徴的で、私はとても好み。読んでいくうちに、特別な文章に出会って、ニヤニヤしちゃうの、もちろん嬉しくてよ。始めの頃は、クセがあって、戸惑っていたけれど、食べ進めるうちに、たくさん美味しい部分を味わってしまったの。そして、その美味しさに反応するのは自分の味覚だけかしらという一種格別な思いを、感じざるを得ない。
空や雲という自然だったり、ネズミや犬という動物を用いて、非現実的な、擬人的な形で、言葉を、いろんなものを操るの。
だから、私はメモがわりに、気になった文章をここに記しておくわ。
「まだ泣いていた。そうしていると、気が楽になってきて、涙は小さなパチパチという音を立てて凍りつき、歩道の滑らかな花崗岩にあたって砕けた。」P47
「コランは思わず、生唾を飲み込んだ。口の中にまるで熱い揚げ菓子をいっぱいほおばったみたいだった。」P51
「周りが静かになった。世界の残りの大部分が、もうバターほどの価値もなかった。」P53
「恐ろしいことだよ。全くどうしていいかわからないんだけど、同時に恐ろしく幸福なんだ。」
「少々、太陽で焼けた草の中に寝転んでいたいんだ。」P58
「恋をすると、人間、バカになるんだ。」P59
「ケーキを二つに割ると、ケーキの中には、シック用にパルトルの新論文が一つと、コラン用にクロエのデートが入っていた。」P62
「太陽もクロエを待っていたが、太陽の方は影や適当な隙間に野生のインゲン豆の種を生やしたり、電気会社の係員がいい加減で街灯が点け放しになっているのを恥ずかしめたりして楽しんでいた。」
「小さなバラ色の雲が一つ、空から降りてきて、彼らに近づいた。雲が二人をすっぽり包んだ。中に入ると熱く、シナモンシュガーの味がしていた。『他人からは見えないよ。だけどこっちの方からは、みんなの姿がよく見えるんだ』」P65
「君は森の匂いがするよ。小川やら、小さなウサギがいる。」P73
「彼は実に親切で、青やモーブ色をした考えが静脈の中で騒いれいるのが見て取れるのだ。」
「僕の求めているものはみんなが幸せになることじゃないんだ。おのおの各人が幸福になることだ。」
「『僕が君にキスするのに飽きるまでには、何ヶ月も、何ヶ月もかかるだろう。君に、君の手に、君の髪の毛に、君のうなじに僕がしたいだけのキスをし尽くすまでには何ヶ月も何年もかかるだろうよ。』」
このコランがクロエに言う言葉が、ロマンチックだわ。クロエの美しさを想像しようとする、とびきりの美女でしょう。
「つやのない石が綺麗な真っ白なクリーム色をし、陽光の柔らかい輝きに愛撫されながら、そこいら辺一面に軽快な穏やかな光を反射していた。」
「彼はほんの欲しさのあまり、ヨダレを流し始めた。それは、小さな川となって彼の足元に落ち、歩道のヘリのゴミの山をぐるっと回って流れ始めた。」P90
「二人は道を急いだ。シックはまるで空飛ぶ竜にまたがったようだった。」P91