=再び= | 松本ヴァイオリン工房のブログ

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東北の岩手-盛岡にある弦楽器専門の工房。バイオリン・ビオラ・チェロの販売、製作、修理、調整を承ります。コントラバスの修理も。秋田や青森、仙台の方もどうぞ!

先週初め、石巻赤十字病院の医師 I 氏が工房においでになりました。


石巻赤十字病院は、3月11日の震災時、石巻市内で唯一残った病院。


先週の土曜日のNHKスペシャル「巨大津波・医師の苦闘」にもそのようすが映されていて見た方もおられたと思います。


I 先生は、古いチェロを持参して来ました。

想像するに本当に久しぶり丸一日の「休日」だったのではないでしょうか。


I 先生とは初対面ではありません。実は数年前にやはりそ古いチェロを持っていらしているのですがそのときには一度その修理依頼をおことわりした経緯があります。


いま改めて考えると、随分と横柄で礼を欠いた言葉でおことわりしていたような気がします。

「このチェロを修理するより新しくチェロを作る方が楽なほど。そんなわけなので・・・」

とか、なんとか言って


実際、そのチェロは表板の魂柱付近に大きな長い割れが3本、またバスバーに沿って陥没するように割れが入り、横板、裏板の割れ大小含めて数十本の割れがあります。

やるとなると簡単な修復作業ではないこと、これは事実です。


I 医師は、もともとチェロを2台所有しています。

一本は新作で健康そのもののチェロ、そしてもう一台はその古いチェロ。

(古いチェロの方は、あのままの状態でしたから現状ではまともに演奏できる状態にはないのです。)


「野戦病院のような・・・」とI 医師が表現した病院。

「悲喜交々」という言葉を使ってよいのかわからないほどの生命の現場。

私には計り知ることの出来ないほどの激務、緊張の連続だったのではと思うばかりです。


自宅に戻り、本当に久しぶりに「弾いてみようかな。」とふっとチェロを手にとった時のこと。

「なぜか普段は手にしない、弾きにくいとわかっているこっちのチェロに自然に手がいって・・・気が付いたらこっちを弾いていた。」のだそうです。

そして「もう一度この楽器で楽しめることができたらいいな、との思うようになって」このチェロを再び生き返らせることが出来たらいいな、との思いで持って来られたとのこと。


新たに楽器を作ることも、“再び”をめざし楽器を修復することも根本のところで同じスピリッツと共にあるのだと、今更ながら気づかされました。