昨日は新国立劇場の小川絵梨子芸術監督が打ち出した企画、フルキャストオーディション第三弾「斬られの仙太」のゲネプロに行きました。

 

*ゲネプロ

総合的稽古の意味を持つドイツ語の「generalprobe(ゲネラールプローベ)」の略で、本番と同じ条件(メイクや衣装、音響、証明など)で本番を上演する劇場の舞台上で行う、全ての稽古の総仕上げになります。
もともとオペラや演劇から来た言葉のため、英語ではなくドイツ語なのでしょう。
さらに略して「ゲネ」「GP」などと呼ぶこともあります。

 

フルキャストオーディションの知らせが届くたび、多くの所属俳優が挑戦します。

1回目の時は4次審査まで通過した者がいましたが、まさか、こんなに早く選ばれるとは、しかもヒロインに抜擢です!

 

 

浅野令子は2人目の子供を授かった時、しばらく女優を休業するつもりでした。

 

Facebookでそのことを知った私は彼女を呼び出し、なぜ休業するのかと問いただしたのです。

 

みんなに迷惑かける、中途半端になると説明する彼女に

私「人間なんて、みんなに迷惑かけて生きてるねん。中途半端って何?完璧ってどういうつもり?み〜んな中途半端やで。中途半端で迷惑かけてやってるって自覚があるからこそ、覚悟が生まれる。」そういってミッシングピースに誘ったのでした。

 

まだ1歳だった下の子をオーディション会場で預かってあやしたり、

自分がキャスティングした案件で。下の子をダブルスタンバイにして現場でベビーシッター買って出たり笑笑

 

今、下の子は4歳(3歳の終わりの頃、4歳になるのが嫌だと泣いてました。別の人になるって思っていたようですw)、つまりは3年経ったってことです。

 

 

その間、彼女は得意とするところの広告で活躍し、新国立「こつこつプロジェクト」では、本当にこつこつ、鍛錬し、

*こつこつプロジェクト

一年間、3〜4か月ごとに試演を重ね、その都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議を重ね、上演作品がどの方向に育っていくのか、またその方向性が妥当なのか、そしてその先の展望にどのような可能性が待っているのかを見極めていくプロジェクトです。
時間に追われない稽古のなかで、作り手の全員が問題意識を共有し、作品への理解を深め、舞台芸術の奥深い豊かさを一人でも多くの観客の方々に伝えられる公演となることを目標とします。

 

一つの目標だった映像でのキャリアアップでは、私がプロデュースした映画「それぞれ、たまゆら」でオーディションでメインキャストを勝ち取り、監督がカットをかけられないほどの心揺さぶる演技を披露しました。

宣材撮影ではちょっと気取った衣装を用意して私に意見を求めてきたから

私「あんな、令ちゃんは色で言うたら藍色。藍染ちゅうこと。ジーンズとかね、そんな感じ。匂いで言うたら、土の香り。

 

かっこつけんでいいと思うねん。令ちゃんらしさで勝負したらええねん。

 

で、撮った写真がこちら

昨日の彼女は凄まじかったです。

震えました。

 

彼女の事務所の代表であることが誇らしくて、嬉しくて熱いものがこみ上げてきました。

コロナ対策で2回も休憩があるのですが、休憩のたびに関係者が集まるロビーで誰彼関係なく「お妙を演じてるのはうちの浅野です」って言ってまわりたくなりました。

(大人なんで大人しくしてましたけどw)

 

17、8歳から60歳くらいでしょうか、女の一生を演じてるのですが、

見事に少女から老婆までを演じ分け、演じ切っていました。

 

 

演出の意図を最も表していたのも彼女だったのではないかと感じました。

 

男性陣は殺陣に芝居に昔言葉の台詞にと、やることいっぱいありすぎて、気の毒でした。

あ、でも、どこをとっても見劣りする部分はなく、

 

舞台全体から伝わる

演じることの喜び、舞台に立てることの誇りと覚悟、一瞬たりとも気を抜かない張り詰めた集中力、相手を生かす芝居、相手を助ける芝居、芝居はそれぞれの役者の真ん中に存在してて、

 

ああ、本当に、フルキャストオーディションのものすごさが伝わってきます。

 

「斬られの仙太」を一言で表すと”愚直”かなと、そうしたら田中邦衛さんが思い浮かんで、違う涙も出ちゃいました。

 

仙太が子供たちが自分で気づくしかない、それぞれの道だと言い、自身はただ、ただ土を耕す、その姿に人を生かす仕事に携わっている自分自身への戒めを感じました。

 

稲穂みのる田んぼを表したラストシーンは日本の美と命が溢れていました。

 

「斬られの仙太」の生き様を彷彿とさせる舞台美術、演出はシンプルで無骨で、俳優の芝居への信頼が伝わります。

 

演出の上村聡史さん、いや、すごい。

元文学座所属。「炎 アンサンディ」「ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる」の演出において第22回読売演劇大賞最優秀演出家賞。「アルトナの幽閉者」「信じる機械」他演出で15年毎日芸術賞第17回千田是也賞を受賞。演出「炎 アンサンディ」が第69回文化庁芸術祭大賞を受賞の経歴を持つ。

一番新しい演出作品は坂本昌行(V6)が主演した舞台「Oslo(オスロ)」。

古典から現代劇、小劇場から大劇場の演出と幅広く活躍されている氏は、特に戯曲を深く読み解き立体化する手腕が大きく評価されている。

今回の「斬られの仙太」では、大胆にも16人の俳優だけで80余の役を割り振り、抽象的でシンプルな黒い空間のセットに、まるで人物達が浮き出るような演出で、一人を主人公とする芝居ではなく、「社会の下層で苦しむ農民の葛藤と時代の奔流に巻き込まれて苦悩する武士の葛藤、両方を生々しく立ち上げ、群像劇ならではの熱を生み出せる」と意気込む。

その瞬間に立ち会えた喜び、その瞬間を毎日味わってる浅野の奇跡、ほぼ1ヶ月の興行。コロナの暗雲が晴れることのない毎日ですが、無事に駆け抜けて欲しい。

 

 

新国立がやろうとしていることがやっと分かった気がする。

今回、浅野がフルキャストオーディションを通過できた理由はいくつもある。

一つには農民。。つまり土の匂い、藍色は彼女の真骨頂だ。

彼女が子育てをして人間力を培ってきたこともきっと一因であるだろう。

彼女が舞台に立てないかもしれない、女優を引退するかもしれないと悩んだことが糧になっているのもきっと関係ある。

でも特に大きかったのは「こつこつプロジェクト」で少女から死ぬまでを何回も演じてきたことはきっと彼女の大きな力になったはずで、

 

そんなプロジェクトを通して俳優たちを育てようとしている新国劇、

そして今回もフルキャストオーディションで有名な俳優が1人も出ない舞台の意味と意義を追求して(俳優もそれに応え)。。。

 

文化を育てているのだと思う。

 

さて、私は。。

新国劇のような長いスパンでは中々、物事を捉えられないが、

新国劇が育ててくれてる浅野令子を世に出していくという仕事には寄与できる。

 

この仕事の意味と意義に震える。

 

新年度が始まったこのタイミングで「斬られの仙太」に出逢えて、感謝しかない。そして、きっと未来の私はもっと「斬られの仙太」に感謝してるだろう。