午後のライブ前に
見逃した作品はここで、と
下り階段が激こわの
 Morc阿佐ヶ谷にて
 
それでも私は 
Though I'm His Daughter
 
 
地下鉄サリン事件等で
知らない人はいない
麻原彰晃こと松本智津夫の
後継者とされていた三女、
アーチャリーこと松本麗華(リカ)
 
両親の逮捕時に12歳だった彼女の
34歳から取材を重ねた
ドキュメンタリー作品だ
 
保険金殺人被害者の兄が
リカに会いたいと申し入れ、
彼女が受け入れたところから
この撮影が始まる
 
まったく別の事件だが、
被害者家族と加害者家族が
それぞれの著作を読み込んで
面会に臨んだ様子が伺える
 
80代かと思われる被害者家族と
若さが際立つ加害者家族が、
互いに死刑反対という点で一致する
真相を知りたい、
生きて償ってほしい、
安直な死での決着には
とうてい納得がいかないのだ
 
ついついあの作品、
対峙 を思い起こすが
直接的な利害関係がないから、
冷静に話せるという気がしないでもない
 
その後、リカの環境が
徐々に描かれていき、
当たり前に慣れてしまった
差別の苛烈さが見えてくる
 
学校の入学拒否のニュースには
確かに覚えがあるが、
複数受かった大学から拒否され、
翌年も同様で提訴し
ようやく入学が認められて
心理学を学んだ
 
それでも就職はできないし、
驚いたのは銀行口座が開けないのだ
 
担当者は確たる理由は言わず、
銀行としての判断、と繰り返す
リカが、
私が松本智津夫の娘だからですか
と尋ねると、
それはあなたの考え、
と突き放される
 
松本智津夫と聞いても
驚かないんですね、
と返せば、
はい
と、あっさり返ってきた
もちろんリカはそれ以上粘らない
これは彼女の日常茶飯事なのだ
 
こうして書き出すと
全部書きたくなるので
是非とも観ていただきたい
 
取材途中で松本智津夫は死刑になるが
それを知ったのはテレビの速報を見た、
という友人からの連絡だった
 
死刑執行で世間は再度湧き立ち、
彼女に謝罪を求める
社会のゴミという
死ねという
 
彼女がなにをしたというのか
 
妹が小学生のころいじめに遭い、
見かねたリカが学校を訪ねたそうだ
 
死にたいと言っていることを
校長に訴えると、
あなたの命は一人だが
失われたのは何十人もだ、
と言われたそうだ
 
信じがたい暴言であり
教育者として人として
考え方自体が狂ってる、
 
マスコミは当初から一貫して
被害者側の報道しかしなかった
それは圧倒的な被害者への
感情移入でもあり
まったく公平さに欠けるもので、
その違和感を持つジャーナリストも
皆無ではなかったが、
声は届かなかった
 
だからこそ、
松本麗華は名前を晒し顔を晒し
自分の声をあげたのだろう
 
講演会でも
ジャーナリスト志望者と話すし
被害者の会にも出席する
時には落ち込んで寝込むし
死にたくなる
それでも本当に真摯に生きている
 
犯罪者の家族にとって
百歩譲って、
ってか、一億歩譲って
親に何かの責任があると責められても
子どもに責任があると責められる道理がない
 
日本人ファースト、
なんて自分本位が認知される時代
いや、時代なのか国民性なのか、
理不尽というよりもはや、
不条理の世界に生きている気さえする
 
犯罪者だって立ち直れる社会へ、
ましては罪なきその家族へ、
同じ人間として寛容な社会に
成熟する兆しはないのだろうか
 
映画作品としては
描かれ足りない部分が多くある
彼女の生活の多くの部分はわからない
 
しかしそれでもやっぱり、
松本麗華のこの笑顔の裏に
どれだけの苦しみがあるのか
あまりに重たい事実を知って
胸が塞る一方で、
同じ状況下の彼女同様の人々を
心から応援したい
 
 

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