今日の絵ハガキ。
月に吠える。
こんな夢を見た。
私ら夫婦は、貧民窟に住むまで落ちぶれた。
鳩の町いわゆるバタ屋集落だ。
毎日紙くず拾いで、生計をたてる。
掘っ立て小屋に数人と暮らしている。
女房は、落ちぶれた私を責めるが、私にも言い分がある。
お前がホスト狂いで借金をつくったからだ。
女房は、他の男の布団に入り、酒代をねだる。
私はなんにも言わない。
自分が不甲斐ないから、1日紙屑をひろっても、その日食べる分の収入しかない。
酒や煙草など無理だ。
私は小屋を抜け出して、隣の居酒屋の前に立つが、中に入らない。
私は呑兵衛だが、飲まなければ飲まないでいられる。
なぜ、俺はここまで落ちぶれたのだろう。
もう真夜中の2時なのに、まだ大勢が飲んでいる。
墨染の男が店から追い出された。
酒癖が悪いらしく、男は吠えている。
なるほど、「月に吠える」 だなと隣に立つ男が言う。
焼酎の瓶をラッパ飲みしているが、萩原朔太郎の処女詩集を知っているから、この男も昔はインテリだったのだろうなと思う。
その男が、今追い出された男は、尾崎放哉だと教えてくれる。
放哉は東大法学部出のエリートサラリーマンだったが、酒でここまで落ちてきたのだ。
そうだ、女房はここの居酒屋で働いてもらおう。
客のおごりで酒も飲めるし、ましな男がいたら、一緒に暮らすと良い。
そのうち、いいことがあるだろう。
私も一人になって働いて、この貧民窟から抜け出そう。
まだ夢の続きがあった気がするが覚えているのはここまで。
掘立て小屋は、黒澤明の「どん底」の小屋だった。
尾崎放哉は酒乱の俳人だが、飲む金に窮すると、隅染めの衣を荒縄で縛った異様な姿で、昔の同僚や後輩の会社に現われて、金を乞うたらしい。
対応する方も体裁が悪いし、脅迫に近いやり方で、いくばくかの手元の金を渡すことになる。
結局、友人や妻にも見放されて、小豆島の寺男で亡くなっている。
病気で動けない放哉を、隣の農家のお婆さんが見かねて面倒を見てあげた。
そのお婆さんの語る放哉の最後の様子が哀れだ。
放哉は、景色を見たいから起こしてくれと頼み、起こしてあげると、もういいからというので寝かせると、また起こしてくれという。
それを何度も繰り返す。
同じことを繰り返す放哉の様子がいつもと違っていた。
その夜、お婆さん夫婦に看られながら息を引き取った。
放哉は最後に何を見ていたのだろう。深い闇を見ていたのか。