今日のスケッチ。
稲村ケ崎公園。
昨日の続き。
君栄は芸者であり、男の酒の相手をするのが商売だ。
気楽に口説いて、ダメなら、よばなければいいだけだ。
ところが、惚れた弱みで強引に口説けない。
恋敵と川崎さんが勝手に思っている小津監督は有名人だ。
小津が君栄を連れて箱根の温泉に行った、熱海に行ったなどの噂は川崎さんの耳にはいってくる。
ジェラシーで、悪酔いしては君栄を怒らす。
川崎さんは、私小説家である。
そういう事を、小説に書く。
あまり売れていないとはいえ、書いた物は本屋に置いてある。
書いた物を君栄が読む。
小津さんも読むが、小津さんの伝記を読むと、川崎さんを三文作家と相手にしていなかったようだ、
独身貴族の小津さんにとって、君栄とは遊びであり、他の女優さんとも浮名を流す。
心底、小津さんに惚れている君栄は、川崎さんにその悩みを打ち明ける。
君栄は、世話になった養親のために、金がいる事があり、旦那を持つことになった。
旦那がいることは小津には秘密だった。
川崎さんは、
その事を正直に小説に書く。
それを読んだ小津さんは、激怒して君栄と喧嘩別れになる。
それで君栄は川崎さんと絶交する。
その後も、川崎さんは、君栄をヒロインにした小説を何作も書いている。
重複する場面も多い。
重複していても、私にはまた別の意味を持っているように思う。
会ってもらえなくなった後も。川崎さんの方は未練があったようだ。
そして、戦後、君栄と電車の中で十数年ぶりに邂逅すると、読んでいる私も、親しい人と久しぶりに会ったような気になるのだ。
なるほど、これが私小説の良さかと思う。
登場人物や出来事が、架空ではないから、君栄のその後の消息も知りたくなる。
君栄は旦那から店を出させてもらい、東京に住んでいる。
喧嘩別れをしたはずの小津さんともつき合いは続き、小津さんの最後を看取ったのも君栄だといわれる。
川崎さんは戦後も、物置小屋暮らしが続き、自分の娘のような年齢の食堂の女給さんに色目をつかったり、女欲しさで娼婦街を彷徨いたりしていた。
その事を私小説に書いているうちに、川崎ブームが起こったのである。
そしてようやく物置小屋から脱出でき、若い嫁さんも来てくれた。
人生、どうなるか分からない。