「時々ベートーヴェン」vol.3~バレエ音楽「プロメテウスの創造物」 | しじみなる日常

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ひとつひとつは小さな蜆(しじみ)でも、蜆汁になったときの旨みは格別な幸せをもたらしてくれます。私の蜆汁は「クラシック音楽」。その小さな蜆の幸せを、ひとつひとつここで紹介できたらなあと思っています。

「時々ベートーヴェン」、3回目はバレエ音楽「プロメテウスの創造物」op.43を取り上げたいと思います。

ベートーヴェンがバレエ音楽!?最初は意外な気がしましたけど、彼は舞台用音楽にかなり意欲的な作曲家だったと思うのです。

オペラこそ「フィデリオ」1作にとどまりましたが、劇付随音楽では「エグモント」op.84「アテネの廃墟」op.113「シュテファン王」op.117などがあるのです。

バレエ音楽も、「プロメテウス」のほかに、ボン時代の1790~91年にかけて「騎士のバレエ」WoO.1という作品も書いています。


今回私が聴いたCDは、ミヒャエル・ハラース指揮、メルボルン交響楽団の演奏。1995年の録音です。

(※このオーケストラは、故・岩城宏之氏が桂冠指揮者を務められました。この曲の録音スタジオもイワキ・オーディトリウム。何だか懐かしい気持ちで聴きました。)


作曲は1800年~01年にかけて。交響曲第1番ハ長調op.21の後に作曲されました。

構成は序曲と序奏、舞曲16曲からなり、時間も70分弱とけっこうな大作です。

最初のシンフォニーが成功をおさめ、その次に挑んだでかい作品がこのバレエ音楽だったのです。

ところがこの曲、序曲はお馴染みですが、全曲となると途端に録音もコンサートで取り上げられる回数も激減してしまうから不思議。

メチャメチャかっこいいし、楽しいのに。何とももったいないことです。


でも、最初は聴いていると戸惑うのですよ。プロメテウスの話と音楽がまるでミスマッチ。

「これって、人間を作って火を与えたら、ゼウスが怒ってコーカサスの山の岩に縛り付けられちゃって、毎日禿げ鷹にお腹を引き裂かれながらも毎日生き返る、あのプロメテウスの話よねー?」。そんな疑問がふつふつと沸いてくるのです。

CDがまたまた輸入盤なので、しょうがない、はなはだ心許ないながらも今回は自分で解説を訳してみました。

そうしたら、あらら、なんとストーリーはハチャメチャでした。

第1幕の序曲と序奏の後、舞曲3曲で人間が作られます。で、あっという間に第2幕へ。

神々の演奏やらダンスの後、なぜかプロメテウスは短剣で刺されて死に(舞曲第9番)、そして次の第10番でさっさと蘇り、第11番以降のストーリーは不明とのこと(どうやら主役級のソロ・ダンスが続いたようです)。

さすがに、「ナンだ、それは!!!」とツッコミを入れたくなりました。


ですが、音楽として聴く分には、そんなことどうでもいいのです。

全曲通して聴いていると、この曲はベートーヴェンの実験的な曲、習作の集まりのように思えてくるのです。

オーケストラを存分に聴かせるところもあれば、ソロを多用した曲もあるし。

現に、第16番のフィナーレは、交響曲第3番変ホ長調「英雄」op.55の第4楽章の主題に使われています。そして、先日書きました「エロイカ変奏曲」op.35の主題でもあります。


それでは、私のオススメ曲をいくつかご紹介しましょう。

舞曲第1番Poco Adagio。粘土から人間が作られる描写です。タ・タ・タタタに代表されるゆったり刻むリズムと、スピードに乗った流麗な音楽との組み合わせが面白いです。命を与えられて、最初はぎこちない人間(男と女)がだんだんイキイキしてくる、そんなイメージです。

第5番Adagio。神々のソロがふんだんに出てきます。女神エウテルペのフルート、アムピオンの竪琴(ハープ)、アリオンのバスーン、オルフェウスのクラリネット、そしてアポロンのチェロ。それらが弦のピッチカートとトレモロの上に乗っかっているのです。何とも優雅で楽しいです。

第8番Allegro con brio。ここはワインと酔っ払いの神様バッカス(ギリシア神話ではディオニュソスでは?)のダンス。打楽器のドカドカドカドカに始まる「トルコ風」音楽です。これが形を変えながら3回繰り返されるのです。かっこいいですよ~。

第13番Allegro。解説によると、コールドバレエ(群舞)のためのドイツ風カントリーダンスとのこと。最初は軽やかに優雅に、だんだん荘重さを伴って、おお!最後は何だかヘンデルの音楽のようです!

そして、フィナーレの第16番。これってけっこう面白いですよね。優雅で華麗な音楽の途中でダダダンって妙なアクセントが入る。解説によると、これがこの時期のベートーヴェンの特徴だったようです。


1曲1曲丹念に聴いていくと、ストーリーはともかく、「踊るための音楽」としても、なかなかよく出来ているように思います。

観たくなりますねえ、このバレエ。

実際、1801年に初演され、翌02年にまでに計25回上演されるほどの人気ぶりだったようです。


おっと!ここで、吉報です。

今月26日と27日、新日本フィルがフランス・ブリュッヘンの指揮でこの「プロメテウスの創造物」(一部の曲を割愛)を演奏します。

私のちょー中途半端な説明にご不満だった方はぜひとも聴きに行ってくださいませ。

実は私が一番不満だったりして・・・(笑)

Ludwig van Beethoven, Michael Halasz, Melbourne Symphony Orchestra
Beethoven: The Creatures of Prometheus