「急行 北極号」~聖夜によせて~信じ続ける~ | ルスナグレイネのききみみずきん

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急行「北極号」

 

 「戦争」という言葉が日々飛び交う重苦しい1年となってしまった2022年が終わろうとしています。しかも、その「戦争」はまだ終わりが見えてきていません。多くの命、多くの家々、人々の財産と国の財産も奪われました。日を追うごとに、武器だけでなく厳しい寒さとの闘いも命を脅かしています。手を伸ばせば温かい空気に包まれることのできる私たちは、その温かさを当たり前に思ってきました。「平和」が当たり前にも思えてきた日々を感謝しつつ、遠くなってしまった「世界の平和」をこの寒さの中にも見つけたい気持ちです。

耳を澄まして「北極号」に乗ってみませんか?

もしかしたら、どこからか「平和」の足音がきこえてくるかもしれません。

 

 ずいぶん昔、子どもだったころ、クリスマス・イブの夜中に、ぼくはサンタのそりの鈴の音が鳴り響くのを待っていた。ともだちは、そんなもの聞こえるわけないさと言ったのだけれど。「サンタなんて、どこにもいないんだよ」ぼくは、そんなことは信じなかった。夜もふけて聞こえてきたのは、鈴の音じゃなかった。窓の外を見ると、うちの前に汽車がとまっていた。ぼくは階段を下りて、ドアの外にでた。

「みなさん、ご乗車くださーい」と車掌が叫んだ。「やあ、君もくるのかい?」急行北極号 に対する画像結果

「どこに行くんですか?」「どこって、もちろん北極点さ、これは急行『北極号』だもの」

 列車の中は子どもたちでいっぱいだった。窓の外に目をやると、遠くの町や村の明かりがまたたくのが見えた。「北極号」は一路北へとひた走っていた。ものすごく高い山も越えた。もう少しで、お月さまをかすめそうだった。「北極号」はスピードをまったくゆるめない。どんどん加速をあげて、ローラーコースターみたいな猛スピードで谷間を抜けた。いつの間にか丘に変わり、北極の大氷原にでた。「ほら、あれが北極点だよ」

 北極点は大きな町で、世界のてっぺんにぽつんとある。街には、クリスマスのおもちゃを作る工場がたくさんあって、そこでサンタがクリスマスプレゼントの第一号を手渡すことになっている。「サンタが、君たちのなかから第一号を手渡すにひとりを選ぶのさ。」

外を見ると、何百という数のこびとたちがいた。道路はサンタの手伝いをするこびとたちでいっぱい。そこで「北極号」はとまり、ぼくは車掌のあとから外に出た。

 サンタはぼくらのほうにやってきて、ぼくを指さして言った。「この子に決めるとしよう」

ぼくはサンタに膝の上に座った。

「さて、きみはクリスマスのプレゼントになにがほしいのかね。」サンタがぼくにたずねた。

ぼくのほしいものは、サンタのふくろの中にははいっていない。ぼくがなによりほしいのは、サンタのそりについた銀の鈴なのだ。サンタはにっこりほほえんでぼくを抱きしめてから、こびとに言って、トナカイの鈴をひとつ切り取らせた。そして、鈴を高くかざして叫んだ。

「これが、クリスマスプ・プレゼントの第一号!」

 サンタはぼくらの頭の上をくるりと回ってから、北極の夜空に消えていった。

ポケットに手を突っ込むと、そこには穴が開いていて、銀の鈴はなくなっていた。ぼくはがっかりしてしまった。帰りの旅が始まって、汽車はぼくの家の前についた。

「クリスマスおめでとう」北極号は、ピイッと大きく汽笛を鳴らし、行ってしまった。

クリスマスの朝、ツリーの後ろに小さな箱を見つけた。中には銀の鈴と手紙がはいっていた!「これをそりの座席で見つけたよ。ポケットの穴は縫っておいたほうがいいね(サ)」

ぼくは、鈴をふってみた。素敵な音がした。ぼくにも妹にもこれまで耳にしことがないような音だった。でも母さんと父さんが「それ、だめじゃない?うん、壊れているんだな」といった。お父さんにもお母さんにも聞こえなかったのだ。

 ぼくはすっかりおとなになってしまったけれど、鈴の音はまだ届く

心から信じていれば、その音はちゃんと聞こえるんだよ。

 

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クリスマス絵本の不屈の名作と言われながら、ご紹介しそびれていた作品です。

題名や表紙からはクリスマスとは結び付かないことも多いでしょう。今年は鉄道開業150周年という話題でも賑わせていましたので、今年こそはと、選びました。

 なんといっても、この画面の美しさが目を引きます。パステルで描かれているのですが、抑えた色調の中に北極の広陵とした風景や、動物たちの生々しい息遣いも伝わってきます。光と影のコントラストで場面の温度も感じられるような気がします。クリスマス絵本はとかく賑やかなカラフルさを求めてしまうことがありますが、きらびやかな光よりもより明るくより暖かくさえあります。翻訳は、あの「海辺のカフカ」の村上春樹さん。文章の端々に村上さんならではの語りが感じられます。きっと、村上ファンにも届く作品の一つになっているのではないでしょうか。

この作品から映画も制作されています。原題の「The Polar Express」は2004年に公開されました。完全CG作品ですが、実際の俳優も参加した映像になっています。映画の最後には、サンタが鈴を渡して「忘れないで、本当のクリスマスは、君の心の中にある。メリークリスマス!」と語る場面が出てきます。絵本の最後は、「心から信じていれば、その音はちゃんと聞こえるんだよ。」というメッセージで閉じられています。

サンタの存在を信じるか、信じないか、親心としては子供の成長と共に悩ましく思うこともありますが、それは子どもたちに任せることでいいのではないでしょうか。

いつも鈴の音が聴こえる心を信じていく、このことには子供も大人も同じです。

この今も、紛争地帯でクリスマスを迎えねばならない人々に鈴の音が届いてほしいと願わずにはいられません。

 

~地には平和、人には喜びを~
”Joy to the World! Happy Merry Christmas to You!”