* 何故だろう いくつになってもお昼のワクワクが止まらない *
雲に乗る vol.3 (つづき)
風が吹くと、ピンクが舞い、
優しい香りがする。
可愛い春だった。
一回目の春休み。
当時、私は武蔵野の小さな部屋で毎日を過ごしていた。
長い春休みを活かしてアルバイトをした。
貯金を直ぐ使い、念願だった家を借りた。
元々、実家はそこまで裕福でなかった為、
周りのように家賃を弾ませることは出来なかった。
大学で将来について勉強することが唯一の親孝行だと思い込んでいた気がする。
華やかな女子大生にとって屈辱的な外観の木造アパートだが、やはり現実には勝てなかった。
気の毒な旦那を持つ母親の顔を浮かべると、贅沢を言えなかった。
父親は30までジャーナリストで、そこからフリーの報道カメラマンを務めていた。
アフガンで両手を失った日本人をニュースで見たと思うが、それは私の父親である。
私は16だった。
彼の手で何かしてもらった事を思い出すと胸が痛くなる。
たまに実家に帰ると、
最愛の犬の 「キュウ」 がしっぽを振って寄って来て、
私と変わらない背の高さを持つ父親が、居間の竹椅子に座っている。
母親がせっせと何か作っていて、特に3人と一匹、
会話をするわけでもなく、同じ部屋に集い、
違うことをしている。
父親とはもう何年も目を合わせていなかった。
どこかを見ているのか、見ている感覚すらないのか、
喋りかけてもこちらを見ようとせず返事するのだ。
何もかも、母親が面倒を見て、そんな面倒を少し遠くから見つめて4年、
いろんなことがあった。
短い様で長い日が在った。
決して暗いと思ったことは無かった。
父親がどんなに愉快な人柄で、気さくな人物かよく知っていたから。
一人暮らしをすると、無駄に考え、無駄に広げていく。
幼い頃には珍しかった孤高の瞬間が続く。
春、
ちょっと寒かったり、ちょっと暑かったり、ちょっと晴れて、ちょっと曇る。
毎日が過ぎて、
窓から見える誰かさん家の桜木が落ち着いた色になり始め、
私は大学二年目最初の出講日を迎えていた。
初日、私のグループは夕方からの授業で、
特に急ぐことも無く、前日までと同様
部屋でゆっくりとしていた。
その日はなんとなく空ろになって、窓から顔を出していた。
春色に垂れた夕焼けがこっちを見ている。
暫くして
重い腰を上げ、ドアを開ける。
木造の廊下を歩き、
木造の急な階段を降り、
集団玄関に散らばった靴に目を回され、
自分の靴の場所まで、他人の靴を踏んで歩いた。
郵便受けを開けると、細い封筒が刺さっていた。
それは両親からの手紙だった。
細い封筒を開けると、丁寧に折られた薄い紙が一枚、
部屋に戻って読むことにした。
母親の達筆で
「一週間前から雨が降っています。
そちらはどうですか。」 から文章が始まっていた。
「昨日は特に酷い雨で、
雷と滝の様に降る雨で眠れませんでした。
朝、小雨になって居たので、庭に出ると、犬小屋の中でキュウが冷たくなっていました。
電話では言えなかったので、文通します。」
【キュウが冷たくなっていた。】
そう、 キュウは死んだ。
私は大学二年の春を迎えようとしている。
棒立ちで手紙を読んだ。
暫く何も聞こえ無かったし、何も考えられなかった。
何も考えられないので、
何度も何度も読み返した。
「キュウは居なくなったけど、 今、 庭の花は満開です。」
手紙は終わった。
キュウは12年生きた。
私の最愛の飼い犬で、子供のとき家へやって来て、
それから毎日一緒だった。
私は苦しくなって泣いた。
胃がギュッとなった。
狂ったように泣き叫んだ。
子供のように泣いた。
漫画みたいに。
頭痛も呼んだ。
過呼吸になった。
動けなかった。
母親の文章の下には
父親が描いた花の水彩画があって、
ばらばらの大きさで ありがとう と書いてあった。
単純だが複雑だった。
私の感情は単純にそれを受け止めたが、脳の別の場所では、堅い堅い何かが複雑にフル回転している。
■
その日、大学には行かなかった。
アルバイトも休みを貰い、
分厚いアルバムを見ていた。
オレンジのぶら下がり電球が
私の体の何倍も影を作った。
父親に抱っこされた私、
カメラを力強く黙視している。
キュウの紐を持つ父親。
私が横で笑っている。
それを見ていると
急な孤独感を感じて、とにかく人込みに紛れたくなった。
そのくせに、
どうしても人前には出たくなくて、行き場所を失った私がメソメソと居た。
ホームシックとは何か違う、
これは何だろうか。
ご飯も食べず、荒れた部屋で枕に顔を埋めた。
キュウを思い出しながら眠りについた。
(つづく)
優しい香りがする。
可愛い春だった。
一回目の春休み。
当時、私は武蔵野の小さな部屋で毎日を過ごしていた。
長い春休みを活かしてアルバイトをした。
貯金を直ぐ使い、念願だった家を借りた。
元々、実家はそこまで裕福でなかった為、
周りのように家賃を弾ませることは出来なかった。
大学で将来について勉強することが唯一の親孝行だと思い込んでいた気がする。
華やかな女子大生にとって屈辱的な外観の木造アパートだが、やはり現実には勝てなかった。
気の毒な旦那を持つ母親の顔を浮かべると、贅沢を言えなかった。
父親は30までジャーナリストで、そこからフリーの報道カメラマンを務めていた。
アフガンで両手を失った日本人をニュースで見たと思うが、それは私の父親である。
私は16だった。
彼の手で何かしてもらった事を思い出すと胸が痛くなる。
たまに実家に帰ると、
最愛の犬の 「キュウ」 がしっぽを振って寄って来て、
私と変わらない背の高さを持つ父親が、居間の竹椅子に座っている。
母親がせっせと何か作っていて、特に3人と一匹、
会話をするわけでもなく、同じ部屋に集い、
違うことをしている。
父親とはもう何年も目を合わせていなかった。
どこかを見ているのか、見ている感覚すらないのか、
喋りかけてもこちらを見ようとせず返事するのだ。
何もかも、母親が面倒を見て、そんな面倒を少し遠くから見つめて4年、
いろんなことがあった。
短い様で長い日が在った。
決して暗いと思ったことは無かった。
父親がどんなに愉快な人柄で、気さくな人物かよく知っていたから。
一人暮らしをすると、無駄に考え、無駄に広げていく。
幼い頃には珍しかった孤高の瞬間が続く。
春、
ちょっと寒かったり、ちょっと暑かったり、ちょっと晴れて、ちょっと曇る。
毎日が過ぎて、
窓から見える誰かさん家の桜木が落ち着いた色になり始め、
私は大学二年目最初の出講日を迎えていた。
初日、私のグループは夕方からの授業で、
特に急ぐことも無く、前日までと同様
部屋でゆっくりとしていた。
その日はなんとなく空ろになって、窓から顔を出していた。
春色に垂れた夕焼けがこっちを見ている。
暫くして
重い腰を上げ、ドアを開ける。
木造の廊下を歩き、
木造の急な階段を降り、
集団玄関に散らばった靴に目を回され、
自分の靴の場所まで、他人の靴を踏んで歩いた。
郵便受けを開けると、細い封筒が刺さっていた。
それは両親からの手紙だった。
細い封筒を開けると、丁寧に折られた薄い紙が一枚、
部屋に戻って読むことにした。
母親の達筆で
「一週間前から雨が降っています。
そちらはどうですか。」 から文章が始まっていた。
「昨日は特に酷い雨で、
雷と滝の様に降る雨で眠れませんでした。
朝、小雨になって居たので、庭に出ると、犬小屋の中でキュウが冷たくなっていました。
電話では言えなかったので、文通します。」
【キュウが冷たくなっていた。】
そう、 キュウは死んだ。
私は大学二年の春を迎えようとしている。
棒立ちで手紙を読んだ。
暫く何も聞こえ無かったし、何も考えられなかった。
何も考えられないので、
何度も何度も読み返した。
「キュウは居なくなったけど、 今、 庭の花は満開です。」
手紙は終わった。
キュウは12年生きた。
私の最愛の飼い犬で、子供のとき家へやって来て、
それから毎日一緒だった。
私は苦しくなって泣いた。
胃がギュッとなった。
狂ったように泣き叫んだ。
子供のように泣いた。
漫画みたいに。
頭痛も呼んだ。
過呼吸になった。
動けなかった。
母親の文章の下には
父親が描いた花の水彩画があって、
ばらばらの大きさで ありがとう と書いてあった。
単純だが複雑だった。
私の感情は単純にそれを受け止めたが、脳の別の場所では、堅い堅い何かが複雑にフル回転している。
■
その日、大学には行かなかった。
アルバイトも休みを貰い、
分厚いアルバムを見ていた。
オレンジのぶら下がり電球が
私の体の何倍も影を作った。
父親に抱っこされた私、
カメラを力強く黙視している。
キュウの紐を持つ父親。
私が横で笑っている。
それを見ていると
急な孤独感を感じて、とにかく人込みに紛れたくなった。
そのくせに、
どうしても人前には出たくなくて、行き場所を失った私がメソメソと居た。
ホームシックとは何か違う、
これは何だろうか。
ご飯も食べず、荒れた部屋で枕に顔を埋めた。
キュウを思い出しながら眠りについた。
(つづく)
雲に乗る vol.2 (つづき)
長い夜だったが、時間に対しては無関心だった。
フローリングに置かれたベッドの支えは微かに床を経込ませていて、
光に当たることのないその足の先を、
一点を見ていた。
右手に持った紙には、他人が音読不可能な字でこう書いてあった。
人には元々、「忘れる」能力が備わっているんだ。
何かマイナスのことが起きても 「忘れる」 ことができる動物なんだ。
人間以外の動物は、
「忘れる」能力が備わっていない為、
虐待を受けてしまえば一生残る。
人は、
幸せな生き物なのかな。
自分が気持ちいいと思った過去だけを残し、
それを糧に今を生きている。
本当に辛い辛い過去を引き出しにしまう事のできない動物と、
どちらがいいのか…。
ね、そうやって考えること、選べることができるのも人間だけなんだよ。
能力を最大限に引き出そうとしてごらん。
新たな力はSFじゃない。
知らないだけさ。
さあ、自信を持って。
****
次は11月10日 火曜日 2時に来てください。
高田
*************************************
僕は
本気で人を愛せなくなってから3年目の夏、そのときよりも
深刻な毎日を過ごしていた。
思い出せることが限られてきた。
僕は
生まれつき、世間が言う記憶喪失で、それは世界でも稀な
専門家しか知らないような病名を背負っている。
記憶を引き出す力がないと言えばいいか、
記憶できないというか。
具体的には
2,3分前に起きた殆どの事柄は、記憶から消えている。
何をしようとしていたか。
何を考えていたのか。
何をしに来たのか。
誰と居たのか。
何も思い出せない。
さっきまで喋ってたじゃない。 と、いつも指摘されて育った。
自分では馬鹿だと思っているけど
周りは以外に優しかった気がする。
知っている単語は人並みだけど、それの意味が分からない。
一人しか居ない家の壁は、画鋲で刺された紙で埋まっている。
一番目立つ字で書かれてあるメモは、
時計の針が9のところに来ると、
毎日0から始まる番号に電話をかける。
だ。
電話をかけると
女の人の声がして、今日は何をしたのかと聞いてくる。
その日、羅列されたメモを読み上げて電話を切るのだが、
最近、その女の人の声がだんだんガラガラ声になってきて、
たまに何かを言っても、一度では聞き取ってくれない始末だ。
女の人は僕に対して親しく名前を呼び、時々笑う。
唯一、毎日、もうそれはそれは長い間
僕に「おやすみ」と言ってくれる人だ。
毎日の事というのは割とよく覚ることができる。
新しいことは苦手だ。
忘れているだけでちっとも新しくなんかないけれど、
ほぼ毎日、僕にとって全てが新しい。
メモは増える。
疑問に思うメモは捨ててきた。
ゴミ箱が一杯になるから自分で捨てているんだろう。
でも
ひとつだけ謎めいたメモがあった。
それは壁の端に貼ってあって、
大分直ってきた。と記されている。
夕飯に何を食べたか答えられた。と花丸してあった。
その花丸は、僕の家には無いマジックで、僕には描けない動物の絵が描いてあった。
捨てられない…。
メモをじっと見つめていた。
右手に持った紙をベッドに置いて、
そっと近づいた。
が、そのうち何をしようとしたのか分からなくなって、
11時の時計が鳴るまでその場に立っていた。
時計が鳴った後、トイレに行きたくなったので、
ふと振り返ると
ベッドの下に動物のイラストが描かれた分厚くて硬そうな本を見つけた。
パラパラと捲ってみた。
ただ、
やはり何をしようとしたのか分からなくなり、
トイレに行った。
どうやら本能は回復した。と実感したが、それがよかったことなのか、
何故自分がほっとしているのか良く理解できなかった。
(続く)
フローリングに置かれたベッドの支えは微かに床を経込ませていて、
光に当たることのないその足の先を、
一点を見ていた。
右手に持った紙には、他人が音読不可能な字でこう書いてあった。
人には元々、「忘れる」能力が備わっているんだ。
何かマイナスのことが起きても 「忘れる」 ことができる動物なんだ。
人間以外の動物は、
「忘れる」能力が備わっていない為、
虐待を受けてしまえば一生残る。
人は、
幸せな生き物なのかな。
自分が気持ちいいと思った過去だけを残し、
それを糧に今を生きている。
本当に辛い辛い過去を引き出しにしまう事のできない動物と、
どちらがいいのか…。
ね、そうやって考えること、選べることができるのも人間だけなんだよ。
能力を最大限に引き出そうとしてごらん。
新たな力はSFじゃない。
知らないだけさ。
さあ、自信を持って。
****
次は11月10日 火曜日 2時に来てください。
高田
*************************************
僕は
本気で人を愛せなくなってから3年目の夏、そのときよりも
深刻な毎日を過ごしていた。
思い出せることが限られてきた。
僕は
生まれつき、世間が言う記憶喪失で、それは世界でも稀な
専門家しか知らないような病名を背負っている。
記憶を引き出す力がないと言えばいいか、
記憶できないというか。
具体的には
2,3分前に起きた殆どの事柄は、記憶から消えている。
何をしようとしていたか。
何を考えていたのか。
何をしに来たのか。
誰と居たのか。
何も思い出せない。
さっきまで喋ってたじゃない。 と、いつも指摘されて育った。
自分では馬鹿だと思っているけど
周りは以外に優しかった気がする。
知っている単語は人並みだけど、それの意味が分からない。
一人しか居ない家の壁は、画鋲で刺された紙で埋まっている。
一番目立つ字で書かれてあるメモは、
時計の針が9のところに来ると、
毎日0から始まる番号に電話をかける。
だ。
電話をかけると
女の人の声がして、今日は何をしたのかと聞いてくる。
その日、羅列されたメモを読み上げて電話を切るのだが、
最近、その女の人の声がだんだんガラガラ声になってきて、
たまに何かを言っても、一度では聞き取ってくれない始末だ。
女の人は僕に対して親しく名前を呼び、時々笑う。
唯一、毎日、もうそれはそれは長い間
僕に「おやすみ」と言ってくれる人だ。
毎日の事というのは割とよく覚ることができる。
新しいことは苦手だ。
忘れているだけでちっとも新しくなんかないけれど、
ほぼ毎日、僕にとって全てが新しい。
メモは増える。
疑問に思うメモは捨ててきた。
ゴミ箱が一杯になるから自分で捨てているんだろう。
でも
ひとつだけ謎めいたメモがあった。
それは壁の端に貼ってあって、
大分直ってきた。と記されている。
夕飯に何を食べたか答えられた。と花丸してあった。
その花丸は、僕の家には無いマジックで、僕には描けない動物の絵が描いてあった。
捨てられない…。
メモをじっと見つめていた。
右手に持った紙をベッドに置いて、
そっと近づいた。
が、そのうち何をしようとしたのか分からなくなって、
11時の時計が鳴るまでその場に立っていた。
時計が鳴った後、トイレに行きたくなったので、
ふと振り返ると
ベッドの下に動物のイラストが描かれた分厚くて硬そうな本を見つけた。
パラパラと捲ってみた。
ただ、
やはり何をしようとしたのか分からなくなり、
トイレに行った。
どうやら本能は回復した。と実感したが、それがよかったことなのか、
何故自分がほっとしているのか良く理解できなかった。
(続く)
雲に乗る
とても蒸し暑く、寝苦しい夜だった。
網戸から見える庭の芝にピントを合わせると、何か心苦しい懐かしい匂いを感じた。
逆さで見える芝は、
そう、
彼の家で私がゴロゴロしながら見つめたあの髪の毛だ。
普段聴きもしないラジオの音と、ジイジイと鳴く何者かの声が、かすかに布団の上から聞こえる。
クーラーのない部屋で、唯一の風に鳥肌を感じながら過ごす私が居た。
「友達に戻りたい」
柳君が告げたのはもう半年も前のこと。
いつもと変わらない天井を見つめ、いつもと変わらない自分のスクリーンに
彼を映しながら、頭の中で声が響く。
声は消え、 彼は笑っていた。
私は無表情だった。
溜息に色が付くのではないかと思うくらいの、
…そんな長い溜息を付き、彼と過ごした時間をじっと思い出した。
柳君と知り合ったのは大学2年の冬だった。
その日、
私はマフラーを深く巻き、夜を歩いていた。
バイト先から帰る途中のこと、
ふと、
割と大きな駅の脇にある、割に合わない小さなカメラ屋で
背の高い男を見つけた。
黒髪の短髪、同じようにマフラーを深く巻き、熱心にカメラを見つめている。
長い首を曲げて一点を見つめていた。
長い足だ。 かわいい色のスリッポンを履いている。
屈めばいいのに…。
時間を余していた私は、惹かれるように
そのカメラ屋へ足を向けた。
店の中は確か暖房が効いていなかった。
それよりも思い出せるのは、両端からカメラに囲まれた木製の部屋。
狭い。
歩く都度モルタルが鳴く。
長方形の部屋の奥でニットの帽子を被った小太り男が何か書類を書いていた。
私は生まれつき目が悪い分、
耳は肥えていた。
あらゆる周囲の音が、音感になって流れてくる。
そんな私だけの譜面に、低い音符が並ぶ。
「これ下さい。」
背の高い男は、小太り店員に声を掛け、ポラロイドカメラを購入していた。
彼は購入したカメラを手に取り、レジの前で暫く突っ立っていた。
まるで柱だ。
あれ、と思うほど長い時間、突っ立っていたので、
小太り店員が、
「あの、どうかしましたか」と声を掛けた。
彼は我に返って駆け出した。
そのとき、
私は振り返って走り出す彼を避けきれず、
腹あたりに顔をぶつけた。
こういう時はスローモーションである。
私は床に尻餅をつき、目を瞑った。
思わず痛い。と大声で言ってしまった。
彼は戦き、周りをキョロキョロと見、言葉にならない何かを言っていた。
特にどこへ行こうとするわけでもなく、落ち着きがない足踏みをしていた。
小太り店員が心配して駆けつけ、
落ちたカメラを拾った。
拾い終えると、私を気遣った。
すいません、部屋で走らないでもらえますか。大切な商品なんです。
足踏みしている背の高い男は、小太り店員に注意を受けている。
彼はというと、まだキョロキョロと焦点を合わせない眼をしていた。
店員は席に戻り、私は彼に大丈夫ですか。と声を掛けた。
え、はい。
三音符並んだ。
彼はトートバッグから小さな小さなボロボロのノートを取り出して、
食い入るようにページを捲った。
旗から見ると私はキョトンとしていた。
私からはカバーしか見えなかったが、よく曲がった汚いノートが
彼に反抗するようにページ捲りを妨げていた。
やがて何かを見つけたようで、すいません。と私に言って店を出て行った。
私は、10秒ほど経過した後店を出た。
店を出ると雪が降っていた。
雪の速度が速い分、雨交じりのそれは冷たかった。
駅構内の黄橙灯に照らされた人達が家路を急いでいた。
その中で、ぼうっと立つ、背の高いトゲトゲを見つけた。
彼である。
首を曲げてボロボロのノートを出し、アルミでできたペンで何かを書いていた。
手は早く動いていて、何かを書き終えると、すぐポッケに閉まった。
構内の階段をかけ上る彼。
待って。
足がそう言った。
私もバッグの中の定期券を取り出しながら慌てて追いかけた。
ツルツル滑る地面などどうでもよかった。
混む改札口の切符挿入口を確かめつつ、遠くに消えていく彼の背中を追った。
その時、私の前のハゲた男の背中に、顔をぶつけた。
二回目。
改札口にの扉は、しっかりと閉じ、
はげた男は私に近距離で謝ってきたが、
背の高い男の方は、私の視力ではもう、掴めない所に居た。
(続く)
網戸から見える庭の芝にピントを合わせると、何か心苦しい懐かしい匂いを感じた。
逆さで見える芝は、
そう、
彼の家で私がゴロゴロしながら見つめたあの髪の毛だ。
普段聴きもしないラジオの音と、ジイジイと鳴く何者かの声が、かすかに布団の上から聞こえる。
クーラーのない部屋で、唯一の風に鳥肌を感じながら過ごす私が居た。
「友達に戻りたい」
柳君が告げたのはもう半年も前のこと。
いつもと変わらない天井を見つめ、いつもと変わらない自分のスクリーンに
彼を映しながら、頭の中で声が響く。
声は消え、 彼は笑っていた。
私は無表情だった。
溜息に色が付くのではないかと思うくらいの、
…そんな長い溜息を付き、彼と過ごした時間をじっと思い出した。
柳君と知り合ったのは大学2年の冬だった。
その日、
私はマフラーを深く巻き、夜を歩いていた。
バイト先から帰る途中のこと、
ふと、
割と大きな駅の脇にある、割に合わない小さなカメラ屋で
背の高い男を見つけた。
黒髪の短髪、同じようにマフラーを深く巻き、熱心にカメラを見つめている。
長い首を曲げて一点を見つめていた。
長い足だ。 かわいい色のスリッポンを履いている。
屈めばいいのに…。
時間を余していた私は、惹かれるように
そのカメラ屋へ足を向けた。
店の中は確か暖房が効いていなかった。
それよりも思い出せるのは、両端からカメラに囲まれた木製の部屋。
狭い。
歩く都度モルタルが鳴く。
長方形の部屋の奥でニットの帽子を被った小太り男が何か書類を書いていた。
私は生まれつき目が悪い分、
耳は肥えていた。
あらゆる周囲の音が、音感になって流れてくる。
そんな私だけの譜面に、低い音符が並ぶ。
「これ下さい。」
背の高い男は、小太り店員に声を掛け、ポラロイドカメラを購入していた。
彼は購入したカメラを手に取り、レジの前で暫く突っ立っていた。
まるで柱だ。
あれ、と思うほど長い時間、突っ立っていたので、
小太り店員が、
「あの、どうかしましたか」と声を掛けた。
彼は我に返って駆け出した。
そのとき、
私は振り返って走り出す彼を避けきれず、
腹あたりに顔をぶつけた。
こういう時はスローモーションである。
私は床に尻餅をつき、目を瞑った。
思わず痛い。と大声で言ってしまった。
彼は戦き、周りをキョロキョロと見、言葉にならない何かを言っていた。
特にどこへ行こうとするわけでもなく、落ち着きがない足踏みをしていた。
小太り店員が心配して駆けつけ、
落ちたカメラを拾った。
拾い終えると、私を気遣った。
すいません、部屋で走らないでもらえますか。大切な商品なんです。
足踏みしている背の高い男は、小太り店員に注意を受けている。
彼はというと、まだキョロキョロと焦点を合わせない眼をしていた。
店員は席に戻り、私は彼に大丈夫ですか。と声を掛けた。
え、はい。
三音符並んだ。
彼はトートバッグから小さな小さなボロボロのノートを取り出して、
食い入るようにページを捲った。
旗から見ると私はキョトンとしていた。
私からはカバーしか見えなかったが、よく曲がった汚いノートが
彼に反抗するようにページ捲りを妨げていた。
やがて何かを見つけたようで、すいません。と私に言って店を出て行った。
私は、10秒ほど経過した後店を出た。
店を出ると雪が降っていた。
雪の速度が速い分、雨交じりのそれは冷たかった。
駅構内の黄橙灯に照らされた人達が家路を急いでいた。
その中で、ぼうっと立つ、背の高いトゲトゲを見つけた。
彼である。
首を曲げてボロボロのノートを出し、アルミでできたペンで何かを書いていた。
手は早く動いていて、何かを書き終えると、すぐポッケに閉まった。
構内の階段をかけ上る彼。
待って。
足がそう言った。
私もバッグの中の定期券を取り出しながら慌てて追いかけた。
ツルツル滑る地面などどうでもよかった。
混む改札口の切符挿入口を確かめつつ、遠くに消えていく彼の背中を追った。
その時、私の前のハゲた男の背中に、顔をぶつけた。
二回目。
改札口にの扉は、しっかりと閉じ、
はげた男は私に近距離で謝ってきたが、
背の高い男の方は、私の視力ではもう、掴めない所に居た。
(続く)
更新が・・・
まだ書く余裕がありません。
色々と同時進行なもので朝から晩まで動きっぱなしです。
せめてこちら でお楽しみください。
インテリアとITをバランスよくデザインされています。
日本に居る限りお目にかかれないのでしょうか。
個人輸入とか…。
六本木のAXISビルに遊びに行くと、いつもうっとりです。
特にBang&Olufsen のプロダクトには溜息しか出ません。
本当に綺麗。
色々と同時進行なもので朝から晩まで動きっぱなしです。
せめてこちら でお楽しみください。
インテリアとITをバランスよくデザインされています。
日本に居る限りお目にかかれないのでしょうか。
個人輸入とか…。
六本木のAXISビルに遊びに行くと、いつもうっとりです。
特にBang&Olufsen のプロダクトには溜息しか出ません。
本当に綺麗。
更新が
滞ってしまい
申し訳ありません。
特に毎度見に来てくれている方々。
現在仕事が忙しく、今の時間帯に帰宅するという毎日です…。
了承ください。
さて、僕は自分でも信じられないが、
モノを書くとき、アドリブである。
つまり構成、企画は立てず、アドリブで書く。
幼い頃から、台本があると嫌な性質で
モノ書きに限らず、
お昼のおやつ(幼少期ですよ)なんかも
戸棚から出てくるおやつは苦手だった。
学校から帰ってきたら遊びに行く!
なんていう台本をひっくり返すような事を常に望んでいた。(我侭)
予定内に入っていないようなこと。
たとえば帰って来るなり、既に母親がドーナツを揚げていて
機嫌がいいから作った。
なんて言われたら、
遊びに行く楽しみが消えるほどだった。
モノ書きの話に戻るが、
自分で驚くことは他にもある。
それは
→本を読まない。
今まで、生きてきた中で、完読したのは一回。
小説を一冊。
しかも最近だ。
これでよくモノ書きなんぞしているものだ。(反省)
途中も最後も考えないアドリブの文章の中で、
添削もせず、
ココで小説を書いてみようと思う。
不定期更新になると思うが実験的で面白いと思う。
(今後の企画のためにも)
読者は、船上で食べる刺身のような新鮮さを味わえるはずだ。
味に好みはあるだろうが
ココに来ないと読めないというレアな魚
だと言うことは理解頂きたい。
申し訳ありません。
特に毎度見に来てくれている方々。
現在仕事が忙しく、今の時間帯に帰宅するという毎日です…。
了承ください。
さて、僕は自分でも信じられないが、
モノを書くとき、アドリブである。
つまり構成、企画は立てず、アドリブで書く。
幼い頃から、台本があると嫌な性質で
モノ書きに限らず、
お昼のおやつ(幼少期ですよ)なんかも
戸棚から出てくるおやつは苦手だった。
学校から帰ってきたら遊びに行く!
なんていう台本をひっくり返すような事を常に望んでいた。(我侭)
予定内に入っていないようなこと。
たとえば帰って来るなり、既に母親がドーナツを揚げていて
機嫌がいいから作った。
なんて言われたら、
遊びに行く楽しみが消えるほどだった。
モノ書きの話に戻るが、
自分で驚くことは他にもある。
それは
→本を読まない。
今まで、生きてきた中で、完読したのは一回。
小説を一冊。
しかも最近だ。
これでよくモノ書きなんぞしているものだ。(反省)
途中も最後も考えないアドリブの文章の中で、
添削もせず、
ココで小説を書いてみようと思う。
不定期更新になると思うが実験的で面白いと思う。
(今後の企画のためにも)
読者は、船上で食べる刺身のような新鮮さを味わえるはずだ。
味に好みはあるだろうが
ココに来ないと読めないというレアな魚
だと言うことは理解頂きたい。
運動
利用できれば素晴らしい。
皆、各々に違ったかたちの消しゴムを持っていると思うが、
まん丸く年を食った消しゴムは、ろくな運動をしない。
試験のとき、緊迫した部屋でつい消しゴムを落としてしまったことがある。
落ちた途端、飼い主から逃げる犬のように
消しゴムは本来の役目を忘れて走り出す。
机の支えをスイスイ避けて、取れないところまで走る。
緊張も集中も消え、赤面で取りに行く。
これは恥ずかしい。
四角い消しゴムがある。
新品で、服の下に粉が付いているやつだ。
いい運動をする。
小学の時、好きな子と席が近くになった。
何とか話したくて迷っていた僕は
名案を想いついた。
消しゴム。
である。
少々頼りないスパイだが、コイツに賭けた。
先生が後ろ向きになった瞬間…
超絶妙な角度でスパイを放った。
あれは素晴らしい運動だった。
その子の足元に行ったのだ!
結果的には気づいてもらえず、
授業後自分で拾ったのだが、
あんなにハラハラ興奮する運動をするモノは他にはないと思った。
この間、
日本VSブラジル戦を見て感じたことでした・
皆、各々に違ったかたちの消しゴムを持っていると思うが、
まん丸く年を食った消しゴムは、ろくな運動をしない。
試験のとき、緊迫した部屋でつい消しゴムを落としてしまったことがある。
落ちた途端、飼い主から逃げる犬のように
消しゴムは本来の役目を忘れて走り出す。
机の支えをスイスイ避けて、取れないところまで走る。
緊張も集中も消え、赤面で取りに行く。
これは恥ずかしい。
四角い消しゴムがある。
新品で、服の下に粉が付いているやつだ。
いい運動をする。
小学の時、好きな子と席が近くになった。
何とか話したくて迷っていた僕は
名案を想いついた。
消しゴム。
である。
少々頼りないスパイだが、コイツに賭けた。
先生が後ろ向きになった瞬間…
超絶妙な角度でスパイを放った。
あれは素晴らしい運動だった。
その子の足元に行ったのだ!
結果的には気づいてもらえず、
授業後自分で拾ったのだが、
あんなにハラハラ興奮する運動をするモノは他にはないと思った。
この間、
日本VSブラジル戦を見て感じたことでした・
