劇団 月とスカレッタ -6ページ目

劇団 月とスカレッタ

2019年に発足
2022年に旗揚げ公演を目指す
劇団 月とスカレッタ
劇団公式Blog
小西優司 岩崎友香 千葉滋 中西彩乃 渋谷結香
葵ミサ 額田礼子 高村賢 相楽信頼

朗読ユニット La Scalaのデビュー公演が20日から始まりますが

本日はそれに先駆けて全四話中の第一話を公開!

 

ちょっと長いですが…読んでみてください







 

第二ヴァイオリン

 

看護婦になって25年目の事でした。ロビーにそれは上品な老紳士が一人でお待ちになっていて、その場所だけがほんのり明るいというか、そんな風に見えるほど、彼は凛として、どちらかと言えば誰かの付き添いで来られているように私には見えました。お名前が呼ばれて、どこへ向かうか指示されたのを見ながら私は自分の担当の病棟へと戻りました。

 それから一週間後の金曜日の朝の事でした。入院患者さんたちの様子を見回っていると、ある個室で、私は彼に会ったのです。思わず、あら?と言ってしまった私に、その紳士はにっこりと笑って、あらとは?とおっしゃいました。たっぷりと生えた髭は真っ白で、短く切った髪をきれいに後ろになでつけて、老人はじっと私を見ていました。

 私は、何と言ったものかと迷いましたが、嘘をついても仕方ないと思い、一週間ほど前にロビーで見かけたこと、とても御病気には見えなかったこと、凛としたお姿がこの目に焼き付いていたことを話しました。彼は、とても優しく笑って、ありがとう、でも癌なんですよ。もうあと、みつきも生きてはいられないんです。とおっしゃいました。私は看護婦であることを忘れて、え?本当ですか?と聞いてしまいました。彼はもう一度、大きく笑って、そうは見えませんか、そうですか、それならよかった。よぼよぼと生き恥をさらすようにはここにいたくなかったので、とおっしゃいました。私は心から非礼を詫びて、個室を出ました。 

 心の奥ではまだ嘘なのではないか、からかわれたのではないかという思いが消えませんでした。そこで、ナースセンターに戻り、誰かに確認しようとすると、看護婦長に呼び止められました。婦長は、新しく入院してきた患者様の説明を私に詳しくお話になり、その方を担当するようにと言いました。それは、先ほど、私が病室を訪ねて驚いたあの老紳士でした。癌なのですか?と私が訊ねると、余命三ヶ月、身寄りがなく紹介で入院してこられたということでした。

 

 何日目かの夕方の事でした。彼は、病室の窓の傍に立って落ちていく陽を眺めているようでした。普段なら、気にも留めなかったかもしれないその姿に私はなぜか、悲しいというか、悲哀のようなものをみて、足を止めました。どうされました?と私が声をかけると彼はこちらを振り返ることもなく、いやね、なに、昔、ずいぶん昔ね、これとよく似た夕焼けをフィレンツェで見たことがあったんですよ。と、おっしゃいました。分かり切ったことでしたが、私はどうしても、もう少し彼とお話がしたくて、イタリアの?と聞きました。

 

 彼はほんの少しだけ黙って、うつむいて、そうイタリアのです。そのころまだ、私の隣には家内が座っててね。家内と二人、旅行に行ったんです。何年前かなぁ。初めてのヨーロッパでね。仕事仕事でどこにも連れてってやれなくてやっと出かけたのがフィレンツェでした。そうですか、と私は相槌を打ちました。その日の彼はとても雄弁でした。少し時間が空いた後、彼はベッドに腰かけて話をされました。アルノ川のほとりで二人で夕焼けを見ていたんです。川面が美しいオレンジ色でね、家内は黙ったまま下流を見ていました。その時、対岸に学生くらいの男の子が一人、ヴァイオリンを手にやってきて、ベンチの上に立って弾き始めたんです。つたない演奏でした。お世辞にも上手と言えないような。何度も何度も同じところでつっかえてね、それでも彼はやめなかった。つっかえては戻り、つっかえては戻り、それこそ二十遍ほども弾き直したころでしょうか、橋を渡って彼に近づいていく人影があったんです。

 

 最初は下流に目をやっていた家内も、そのうち学生にくぎ付けになっていました。やがて、橋を渡った人物は彼の立つ場所のすぐ近くのベンチに腰掛けました。その時です。世の中には不思議なことっていうのがあるものですね、学生は初めて最初から最後まで一度もつっかえることなく弾き終えたんです。もちろん、そんなに上手じゃない。でも、途中から聞いていた人たちも、我々も、傍らに座った人物も、自然と拍手していました。家内は泣いていたのかもしれないなぁ。ハンケチでそっと目頭を抑えていました。そうすると、ベンチに座って拍手していたその人が立ち上がってゆっくりと学生の彼を抱きしめたんです。その時になって気が付いたんですが、抱きしめたその人も男でした。そして二人は長くその夕日の中でキスをしていたんです。私はね、恥ずかしい話ですが、驚きました。男同士でなんて思っていました。

 

 でもね、家内はそれを見て、素敵ね、世の中はこうでなくちゃ、私たちの固い頭でたくさんの事を不自由にしてちゃいけないわね。そういいました。私はなんて答えていいかわからなかった。それでね、その時、学生が弾いてた曲を家内に教えてやったんです。弦楽器にはちょっとうるさくてね、私。それと、そのくらいしか言えることがなかったんです、私には。そしたらしばらく経って、家内が言ったんです。女でなきゃいけない、男でなきゃいけないなんてないのよ。本来、愛は愛し合う二人のためにあるの。って。

 

 日が、暮れていくのが見えました。オレンジ色の夕焼けが、フィレンツェの町のオレンジ色の街頭に変っていくまで、私は家内と川面を見ていました。不思議ですねぇ。帰国して一年ほどたった頃、家内と別れたんです。いまね、この夕焼けを見ていて、あの日のフィレンツェを思い出したんですよ。あの時、何か違うことを答えていたら、いまここにはまだ家内がいたんじゃないかって、この年になって何かを後悔するなんてのは酷くみっともないことだし、それをあなたに聞いて頂くなんてどうかしてると思うんですけどね。すみません。

 

 そこまで言うと老人は、そうさっきまで老紳士だったその人は、急に老人になってしまったように私には見えたのです、その老人はベッドに横になりました。私は西日のゆるくなった窓へ行き、カーテンをそっと閉めました。

 

 彼にかける言葉が私には見当たりませんでした。何と答えればいいか、どんな言葉が相手の心に響くか。それはちょうど、老人が奥様に答えた、いえ、答えに窮していってしまった何かのように、いくつかの話題が浮かんでは消え、浮かんでは消え、結局、一つとして言葉にはならなかったのでした。

 三日後でした。老人はなくなりました。どこかの大学の偉い先生だったようで、亡くなる二日前くらいから病室にはひっきりなしに学生や、同僚の先生や、ともすると代議士の先生まで訪ねてくるようになりました。そして、突然、何の前触れもなく、彼はなくなりました。

 亡くなる前日に、彼は私にパガニーニの演奏を聴いてみたかった、とおっしゃいました。私はそれが誰だか知りません。もしかしたら最後の最後まで、わかれた奥様にかける言葉を探しておられたのかもしれません。彼がなくなった日の午後、病室に娘さんだという方がおいでになられました。凛とした顔つきの、その老人にほんの少し面影のある、美しい方でした。父はどんなことを入院中に話していましたか?と聞かれたので、わかれた奥様とお出かけになったフィレンツェの話をしておられましたよ、と伝えました。

 それを聞くと彼女は、窓の方へ歩いて行って、夕焼けの話ですか?今ここから見えるような。と言われました。私は、そうです、こんな夕焼けだったと話をしてくださいましたよと、いいました。そうですか、と彼女は言って静かに涙を流し始めました。父は馬鹿なんです。あんな人、あんな人。とだけ言ってしばらく泣いておられました。

 私は言葉をかけるのをやめて、窓の外に見えるオレンジ色の夕焼けと、行ったことのないフィレンツェの町と、想像の中で流れたパガニーニのヴァイオリンを想いました。

 

 人生は、時々、言葉ではどうにもならないものにぶつかるものだといつも感じます。そんな時、景色や、音楽が人の心を助けてくれるんじゃないかと、私は思いました。

 

 

 

 

 

 

いかがでしたか?

あと三話、劇場で聴いてください

お待ちしています!!!!!



𝓛𝓪 𝓼𝓬𝓪𝓵𝓪


スカレッティーナ演劇研究所

プロデュース企画第ニ弾 

朗読ユニット𝓛𝓪 𝓼𝓬𝓪𝓵𝓪


『カルテット』


作・演出・プロデュース

小西優司


出演

川合土土/子安由/竹田真季/三浦慶子


音楽

仲条幸一


衣装

さくまのぞみ


音響照明オペ

佐古達哉


劇場

東中野RAFT


日時

2020

1120()

16:0019:30

1121()

14:0016:3019:00

1122()

15:00


料金

¥3300


*お席は各回14席と致します

*コロナ対策、感染拡大防止して上演します


ご予約

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小西優司によるオリジナル小説を

仲条幸一の音楽に乗せ

4名の女優で紡ぐ朗読会


ご予約


あらすじ

今回は『弦楽四重奏』をテーマに、ヴァイオリンの物語が二本、ヴィオラとチェロの物語が一本ずつ、各1015分程度を上演します。各楽器の物語と最後に奏でる4人のハーモニーにもご期待下さい。

 

 

12月8日に幕を開ける

劇団 月とスカレッタ試演会シリーズ②

『執事たちの沈黙 ~勿忘草の約束~』

に先駆けて、少しずつですが情報を公開

本作品では

劇場にてパンフレットを販売、

そのため情報の重複のないように

Blogでは

主宰・小西優司による

独断と偏見での紹介を敢行

これを読めば

本作品が1000倍楽しめるず・・・。

ちなみに

出演者が11名なのでサッカー選手に例えています(笑)

 

さて、本編へ・・・

 

第一回は、もちろんこの人とこの人!

 

【友香ちゃん】

はい、友香ちゃんです

最初にあったのは・・・彼女が15歳くらいの時ですね、確か

正義感強くて、実直で、初志貫徹ってとこですかね

うちの劇団においては「一番偉い人」でもあります(笑)

いや、というのも、僕がだらしないというか、あんまり物事の後先を考えないので

友香ちゃんがいるかいないかで、成り立ちと結果は大きく違うなっていつも思います

後輩の面倒見もいいし(みんな怒られてます)気配りもしてくれます

お芝居はというと、そうだな

ちょっと融通の利かない感じの役と、宗教的な役の時の破壊力は凄まじいですね

前の劇団での話ですがイプセンの『ヘッダ・ガーブレル』でのエルブステッド、『野鴨』のヘドヴィは素晴らしい出来だったと思います

イプセン女優なんだと思いますね、潜在的に男性の憧憬と畏怖の対象であることが出来る珍しいタイプです

そんな友香ちゃんが今回はどんな役を演じているのか・・・それは劇場で確かめてください

 

サッカー選手に例えると・・・自分で用意したのに結構思いつかない(笑)

そうだなぁ

歴代の日本代表選手なんかで考えると、田中マルクス闘莉王ですかね

 

 

いや、怒られるかな

でも、センターバックって感じです。そのうえで攻撃参加して、皆がだらしないと怒ってる感じ。

 

 

 

【渋谷さん】

結香ちゃんです(笑)

そうですね、

この人が劇団のオーディションを受けた時

「どうしっよかなぁ」と思ったんです

お美しかったし、うちでなくても

きっとご活躍になれると思って

でも、結果から言ったら、

この人のいないうちの作品って、

考えられなくなりました、

大黒柱ですね

それはなんていうのかな、

友香ちゃんとか、しげるとは違った意味で、

この人はオンリーワンなんです

演出席にいても、共演しても

本当に気持ちのいい素晴らしい女優さんです

あんまりほめ続けるのもアレですね・・・

のぶ君の事を「育三郎」って呼んでたり、

恐ろしいほど天然だったり、

笑いが一週遅かったり

なんだろう、不思議ちゃんでもあります

 

役はどうだろうなぁ

個人的には一緒にやった

『かもめ』のアルカージナが僕は一番だと思ってます

コメディが出来て、感情が豊かで

「お母さん」の匂いがちゃんとあるんですよね、

凄いことです

この人はチェーホフの人ですね

 

サッカー選手に例えると・・・これ全員出来るかな(笑)

そうですね、ゴン中山です

 

 

ちゃんと点が取れる、感情がとにかく多い、コメントが面白い

今回の作品でもハットトリック決めて欲しいです

 

 

 



 




2020128(火曜日)13(日曜日)

千歳船橋APOCシアター

東京都世田谷区桜丘5-47-4

*コロナ対策を施し安全安心な運営を心がけます

作・演出

小西優司

音楽

仲条幸一

音響オペ 佐古達哉

照明 ゴーライティングオフィス

〈チケット〉

前売¥3800

当日¥4400

*席数は50です

〈予約〉

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〈日程〉

8(火曜日)

19:30

9(水曜日)

14:3019:30

10(木曜日)

19:30

11(金曜日)

14:3019:30

12(土曜日)

13:3018:30

13(日曜日)

14:30

 

〈物販〉

当日は劇場にてパンフレットの販売をします!

そこにはそれぞれの役の「私服姿」も掲載

出演者インタビュー、アンケート、写真、今後の予定や夢など満載のパンフレットを是非!

¥1500(税込)

 

 

執事たちの沈黙 〜勿忘草の約束〜


カウントダウン企画


誰が出てるの?

どんな役者なの?

どんな台本なの?

誰が演出してるの?

どんな演出家なの?


面白いの?


そんな皆さんの疑問に

少しだけ

でも、確かに答えるのが

このカウントダウン企画です


UPされるのは毎週木曜日!

と、番外編がちょっと


ともかくお楽しみに

なにより、本作品をお楽しみに


予約はこちら

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