その年、ライトスタンドに行く度にDブロックで見掛け、東京音頭に合わせて友人Gが傘を貸したのがきっかけで友達になったドイツ人のS君。
その年の彼は6月に来日して以来、神宮球場で観戦しなかったのはたった2試合だけで二十数試合を観戦するという猛者っぷりだった。
(後で聞いた話だけど)ドイツ人にとって野球が新鮮なのと、何より神宮球場がステキで異国の地で暇をもて余した夜を過ごすには絶好の場所に思えたらしい。

片言以下の彼の日本語と、僕らのテキトーな英語でコミュニケーションを始めて友達になって早いもので5年が経った。
彼は一旦ドイツに帰ったものの日本が好き過ぎて再来日して、京都で見つけた彼女とめでたく結婚して仕事も得て日本の社会に溶け込んで神奈川県に住んでいる。
スワローズ愛は相変わらずで、最近は翻訳アプリを通さない日本語でLINEを寄越してくる。
『ね! 月末一緒に野球みに行こう。阪神戦土が日。どう?』
久しぶりに会った彼は見違えるほど日本語が上手くなっていて、もはや僕らのテキトーな英語は必要とせず、日本語の難解な言い回しもほぼ理解できるほどになっていた。

というわけで満員御礼の灼熱の神宮球場。
ライトスタンドのスワローズファンには刺すような西日を我慢したご褒美のように美しい夕陽や夕闇が待っている。
ほのかに外苑の森の匂いを運ぶ風、赤紫色に染まる夕闇、大好きなスワローズの野球を観ながらビールを煽って至極のひとときを感じなが思うのだ。
『屋内球場ざまーみろ…』とね。

というわけで、十年に一度の逸材と信じて疑わない寺島君は中々芽が出ずとも、粘り強い野球であわやサヨナラ…まで追い詰めた。
この日は序盤に6点を献上して万事休すな展開だったけど、大下君の力投やじわじわ追い上げるヤクルト打線に負けたとはいえとても満足して帰ってきた。

友人S君は魚料理以外の日本食が大好きで、彼とはお好み焼きや串カツやちゃんこ鍋や焼肉に行った。
日本食の紹介はほぼ終ってるのでこの日初めて彼とドイツ料理の店に行った。
メニューを見ながら彼がドイツ語を交えながら料理の説明をする姿を見て『うわっ、ドイツ語ペラペラやん!』と感心w

学校でも職場でもSNSでもなく、神宮球場でたまたま居合わせたのがきっかけで5年も続く友人関係が築けて、それが外国人って中々素敵だな~。
というわけで次は8月に観に行く約束をして別れたのでありました。