何度か失敗をしているので「SNSでしょっぱい話をするのはよそう…」と思っているんだけど、この一件について黙して語らず…というのは些か臆病な気もするので、重苦しい気持ちを携えつつ書こうと思う。
※事案が発生してすぐに記事にしなかったのは、Jリーグが処分を発表するのを待っていたからです。それは、サポーターと言われる一人のファンであってもクラブの一員であって、リーグの処分が決定されていない内に、仮にSNSであっても軽はずみな発言をするとクラブに迷惑が掛かる可能性がある…という考えからです。
◆まず始めに
今回の行為は日本サッカー協会における…
「人種、性、言語、宗教、政治又はその他の事由を理由とする国家、個人又は集団に対する差別は、いかなるものであれ、厳格に禁止されるもの…」
の基本規定に抵触していて絶対にあってはならないことであり、サッカーだけでなく、いかなるスポーツにおいてもあってはならないこと。
そしてスポーツ観戦をする全ての人が認識しておくべきことだと思う。
◆不用意に振られた一つの旗
僕の応援しているサッカークラブの、とある試合のゴール裏で振られた一つの旗が大変な事態になっている。
それはナチス親衛隊を想像させるデザインの旗だった。
◆処分
11日に発表されたJリーグからの処分はクラブに200万円の制裁金とけん責処分を科した。
更にクラブが独自に科した処分は、旗を振った人を特定した上で当人の無期限の出入禁止、当人が所属する応援グループの解散、数十人に及ぶ当該応援グループのメンバー全員の無期限の出入禁止、当該応援グループのリーダーの永久出入禁止、サポーター全員にはフラッグ・ゲートフラッグやボード・横断幕の持ち込みと掲出の無期限の禁止の処分となった。
この応援グループはゴール裏における応援活動の中核を成していて、リーダーにおいてはずっと前からコールリーダーを務めていた人だった。
起こしてしまった事とは別に、僕は彼の試合中のカリスマ的な立ち居振舞いが大好きだったので心の底から残念で仕方がない。
今回掲げてしまったナチス親衛隊を彷彿させるフラッグについては、一人のしでかしたこととはいえ、クラブと全サポーターの集団責任をもって処分が科された。
これがサッカーのルールであり、ゴール裏の片隅で声を張り上げている一人として、僕は如何なる処分も受け入れるつもりでいた。
※処分だけではないけど、野球の「球団」とは違う、サポーターも「クラブ」の一員である…というこの思想は運営会社・チーム・サポーターの一帯意識を感じることができてとても気に入っている。
■この件は大きな要素が三つある。
・日本におけるサッカーの応援文化とそのベクトル
・歴史観と教育
・何がダメなのかが何かが不明瞭
・個人の道徳意識
◆日本における応援文化とそのベクトル
20数年前に10チームで始まったJリーグは今やJ1で18クラブ、J3まで入れると53クラブに増えた。
その応援スタイルはそれぞれ違うものの、見ていると古参クラブほど欧州や南米の応援スタイルに摺り寄ってるようにも見える。
チャントと言われる応援歌は欧州や南米のクラブのサポーターが使う歌に日本語を当てはめて歌うの多い。
その起源や理由は知り得ないけど、それまで日本にはサッカーの応援文化が無いに等しく、強さ・勇ましさ・威圧感をもって相手を圧倒的したい…というのを手っ取り早く取り入れたのが狙いだと僕は勝手に解釈している。
そこから強そうでワルそうに見える武闘派的な方向に向くのはわからなくもないけど、対戦相手が歌詞は違えど同じチャントを使ってたりすることが多いということもあって、「もう少しオリジナリティがあってもいいのに…」と思うことは常。
一方、J1を目指すJ2のクラブはオリジナリティある歌を歌ったり、県民の歌を歌ったり、古くから親しまれている童謡を歌ったりしているところがある。
数年前、幸か不幸かJ2のクラブのゴール裏の応援を正面から見る機会を得た。
僕の感想は『J2のクラブの応援のベクトルはとてもシンプル』ということ。
わざわざ対立軸を作ることなく、純粋に「おらが町のサッカーチームをJ1に!」という夢を携えて応援してる…ように僕には見えた。
それからするとJ1の古参クラブの応援ベクトルは見方によっては歪曲してるようにも見える。
もう少しシンプルにクラブや選手を応援するスタイルになればいいのに…とも思う。
◆歴史観と教育
ナチスの象徴の卍型の鉤十字のマークは誰もが知ってるけど、今回発端となったナチス親衛隊のSSマークのデザインは正直に言うと僕は知らなかった。
それは神宮球場で知り合って仲良くなったサッカーが大好きなドイツ人のサッシャ君に画像を見せても、「何それ???」という表情をして、英語版wikiを見せると「なるほど、これね…」というニュアンスで眉間にシワを寄せた。
とはいえ、ナチスに関しては欧米ではタブーで、ドイツでは身に付けるのことすら犯罪であって検挙されるらしい。
日本一ではアイドルグループがナチスの制服を模した衣装を着て問題になったのは記憶に新しいところ。
なぜ、ナチスに対してなぜ日本は鈍感…というか、身につけることへの罪悪感が植え付けられてないのだろう。
世代の違いや僕自身の認識や不勉強あるかもしれないけど、日本の教育においてそこまでタブーとして教育されてこなかった背景もあるのかもしれない。
僕が記憶しているところのナチスについての教育は、アンネの日記を題材に「ヒトラーを筆頭にとんでもないことをしでかした組織…」だったけど、一方で「戦時中、ドイツは日本にとっていいもんだった」とも教わっていて、少なくとも絶対に触れてはいけないタブーという教育はされた記憶がない。
プラモデルもドイツ軍の戦車をよく作ったし、独特の制服やヘルメットがかっこよく見えた。
ゆえに今回原因となった旗を掲げた当人も旗を持ち込もうと発想した時点で、それほど罪悪感や差別的だったり政治的な意図はなかったのではないか…と想像した。
更に今回このデザインのフラッグを持ち込んだ当人が、これがナチスの象徴の一つとして認識して持ち込んだのか…というのも気になるところ。
(色んな情報はあれど、クラブもリーグも発表していないし、マスコミも報道していないのでここでは控えることにする。)
とはいえ、どこかの海外のクラブの過激なサポーターを真似て引用したかどうかってのは知るよしもない。
だから仕方がない…と言っているわけではなくて、認識と事の重大さがこの国には浸透しきってないのではないか…とも思えるのだ。
◆何がダメなのかが不明瞭
前述した通り、Jリーグの規定には具体的に何がダメ…という詳細に示されたものが(たぶん)ない。
使ってはいけないデザイン、表現、行為をもっと具体的な言葉・行動・図解で提示しておけば同じ過ちは起きないかもしれない。
何も知らず「カッコいいな…」と思って取り入れたデザインや、意図しない行為が規定に抵触することがあるかもしれない。
このままだとゴール裏を望遠レンズで撮影して「魔女狩り」の如くあら探しが始まるのではないかと危惧している。
例えばいつかのJリーグの試合で選手に向けられたバナナ。
国際的にはアフリカ系やアジア系の人にバナナを掲げる行為は、動物を意図したもので人種差別を意味しているらしい。
これも僕は知らなかったし、たぶんつば九郎も知らない。
バナナを掲げたサポーターが応援していたクラブに500万円の制裁金と、その行為をしたサポーターに出入り禁止が言い渡された。
報道によると、掲げた本人は差別的な意味があるのを知っていたらしいけど、最近つば九郎がその日のヒーローにマイク代わりにバナナを向けるのはアリなのか?と気になって仕方がない。
もしバレンティンに向けられて、画像が国際配信されたらどうなっちゃうんだろう?とわりと真面目に危惧している。
◆個人の道徳意識
何か事が起こると「一部のサポーターが…」というが、サッカーにおいては一人がFIFAやリーグの規定に触れる行為をしたら、クラブやサポーター全員で責任を取る仕組みは変わらない。
クラブが講習会を開いて、くまなく全員に周知徹底を図るなんてのは土台無理なこと。
見掛けたら注意をし、注意をされたら聞き入れる土壌作りも必要。
『何をしたらダメ』というのをもっと具体的に提示をして喚起した上で、どこかで線引きを引かないとJリーグのゴール裏からフラッグや段幕が消える日が来るかもしれない。
と、結論もなくツラツラと駄文を書きなぐってきたけど、僕がゴール裏に行くのは一つ。
これまでスポーツを応援してきた中で味わったことのない、『勝ちたい気持ち、熱さ、激しさ』が体感できるから。
ゴールの瞬間や勝った瞬間の麻薬的な感覚はここでしか味わえないから。
あまりお行儀よくなり過ぎてもつまらないし、暑苦しく楽しくいこうや。