どしゃ降りの雨の想い出 | LukeのBlog

LukeのBlog

ヤクルト・スワローズ、ヤクルト・レビンズ(ラグビー)、ラグビー、ガンバ大阪、陸上、サイクルロードレース、東大野球部、東大ウォリアーズ(アメフト)、Xリーグを熱烈応援中で趣味・料理。

僕らはまた一つの想い出を作った。

宮本選手の2000本安打については少し落ち着いてからもう一回書こうと思っていたんだ。
彼の偉業と共に刻まれる僕らの想い出をしっかりしまっておくために。

その日は願ってもないゴールデン・ウィークのデーゲームで、午後に雨が降る予報が信じられないくらいの淡い青空が広がっている絶好の野球観戦日和。
LukeのBlog-2012050515480000.jpg
僕は何年も着ているブルックス・ブラザースのお気に入りのポロシャツを着て出掛けた。
今年初めて着る半袖はこんな日のために引っ張り出して一度洗っておいたもので、洗いざらしの綿の肌触りや腕に直接あたる風がとても気持ちよかった。

外苑の森に着いた頃にはライトスタンドの入場待ちの列はいちょう並木を半分以上進み、秩父宮ラグビー場の青山門を迂回してセランに迫ろうとしていた。
試合開始4時間前だというのにこの長蛇の列となると、ひょっとすると青山通りに達するかもしれない。

それを見てなんだか懐かしい気持ちになって、ふと思う。
「いつぶりだろう、この長蛇の列。」
池山さんの時のレフトスタンドにも押し寄せたヤクルトファンの数、古田さんの時の緑のパネルで染まった神宮球場とまさかの佐々岡投手の登板、10.9の阪神ファンのため息…。

これまで色々あったけど決して多くはないスワローズの歴史をこの目でしかと見届け、彼のために神宮球場を一杯にしようと集まったヤクルトファンの意地と彼への敬意を感じた気がして鳥肌が立つ。

「宮本選手は幸せ者だ。」

そんなことを思いながら一人並んでいる時の外苑の森の新緑のフィルターを通した柔らかな日射しと春の風がとても心地よかった。
一人で並んでいる負け惜しみを格好よく言うと、人との会話が鬱陶しいと思えるくらい春の外苑の森との会話を楽しんでいたんだ。
そんな一日の始まりだった。

開門と共にあっという間に空が暗くなり、試合が始まる前から雨が降りだした神宮球場。
ライトスタンドは彼が第一打席で打つものだと決めつけているかの様な雰囲気が球場を埋めつくす。
彼の打席ではひどい雨なのに空席はなく、ライトスタンドの観衆は全員立ち上がってその時を待っていた。
もちろん僕も打つと信じて観ていた。

「どしゃ降りの雨の中で見たんだ。」

宮本選手の第一打席、雨が一層強く雨ガッパを叩いている中で彼は打った。
まるで雲の中にいるような白く霞んだ空気と雨でよく見えなかったけど彼が鋭く振り抜いたバットから放たれた打球がセカンドベースの上を通過してセンターに抜けるのが見えたんだ。
物凄い歓声が沸き上がると同時に神宮球場の野球の時間が止まった。

スタンドは雨なんて関係なく地鳴りの様に沸き上がり、「確かにこの目で見た!」という興奮を誰それ構わず分かち合う。
グランドではベンチから選手が出てきて宮本選手を祝福している。
気づいたら“宮本コール”をずっとしていた。

「慎也がついにやったんだ。」

LukeのBlog-2012050417460000.jpg
試合が進んで空はいつの間にか明るくなり、西陽が一塁側の照明灯を照らしている。
僕は空を見上げながら頭の中で何度もその瞬間を思い出していた。
しっかり覚えておかなくては、と。

史上40人目の2千本安打。
それは彼のプレイスタイルやプロ入りへの経緯から察するに、これまで誰も成し遂げられなかった価値ある偉業に違いない。
LukeのBlog-2012050418330001.jpg
試合が終わる頃日は落ち始め、空気の入れ換わった空は朝の淡い青から紺青に変わっていた。

なんとも言えぬ満たされた気持ちに飲まずにはいられない。
彼のお祝いと祝勝会、カープとカープファンへの敬意を込めて新宿で飲もうではないか。

この日の彼の偉業は、どしゃ降りの雨と一緒に僕の記憶の引き出しにしっかりしまわれるだろう。
僕はいつの間にか破れてた雨ガッパをごみ箱へ捨てた。