今日は,昨日の続きで(昨日のブログはこちら),相続の話をします。
昨日は,
人は必ず財産を残して死ぬということ,亡くなった時に残された財産を「遺産」と呼ぶこと,そして,遺産は持ち主が亡くなった瞬間に,法定相続人全員の「遺産共有状態」となり,そのため,法定相続人が遺産に手を付けることはできないけれども,遺産共有状態を解消する「遺産分割」が済めば,遺産が相続人に引き継がれ,相続人も遺産に手を付けることができるようになる
そんなことをお話しました。
しかし,これは遺言がない場合です。
そもそも,自分の財産は,どう使おうが自分の勝手です。
だから,自分が死んだ後に,自分の財産を誰にどれくらい分配するか,自分で決めていいわけです。
だって,自分の財産だから。
遺言は,このような役割を有するのです。
つまり,自分の財産を,自分が死んだ後に誰にどのように分配するか,死ぬ前にあらかじめ決めておく,というのが遺言なのです。
遺言が残されていた場合,その遺言で,配分の方法が書かれた財産については,昨日お話した「遺産共有状態」が生じません。
「遺産共有状態」が生じないというのは,亡くなった瞬間に,遺言に書かれた人物に,その財産が承継されるということです。
例えば,渡辺謙が,「長女杏に全ての財産を相続させる」という遺言を残して亡くなった場合,渡辺謙が亡くなった瞬間に,渡辺謙の財産全てが杏に承継されて杏の持ち物となり,同じく渡辺謙の子どもである渡辺大と杏との間で「遺産共有状態」が生じることはありません。
まあ,自分の財産をどう配分するか,自分で決めていいのですから,このような結論に違和感を持つ方は少ないでしょう。
ただ,ここで「遺留分」という制度が登場します。
先ほどの例では,渡辺謙が「財産全てを長女杏に相続させる」という遺言を残して亡くなっているので,杏が渡辺謙の財産全てを承継することになる,ということでした。
自分の財産をどのように分配するかは,持ち主の渡辺謙自身が決めていいからです。
最初に言っておくと,「遺留分」というのは,この「杏が全ての財産を承継する」という結論を変えるものではありません。
「全ての財産を長女杏に相続させる」という遺言が残されていれば,全ての財産を杏が取得します。
では,「遺留分」とは何かというと,簡単に言えば,「法定相続分の半分の金額」を,遺産をもらいすぎた人に請求できる,という制度です。
うーん,難しいですよね(笑)
まず「法定相続分の半分の金額」について説明します。
先ほどの渡辺謙の例で,渡辺謙の遺産が10億円(不動産5億円,預金3億円,株式2億円)で,子どもは杏と渡辺大の2人とします。
この場合,渡辺大の「法定相続分の半分の額」とは,渡辺大の法定相続分2分の1(相続人は子ども2人なので,子どもの1人である渡辺大の法定相続分は2分の1となります)の半分,つまり「4分の1」×10億円=2億5000万円,ということになります。
この「2億5000万円」を,「遺産をもらいすぎた人」,つまり「杏」に請求できる,というのが遺留分です。
以上をまとめると,
①「全ての財産を杏に相続させる」という遺言によって,10億円分の財産全てが,杏の物となる。
②しかし,渡辺大も,杏に対して,2億5000万円のお金を請求することができる。
これが,遺留分制度です。
ただ,遺留分の請求には,時効があります。
気をつけてください。
自分の取り分が遺留分に足りていないことを知った時点から1年間です。
渡辺謙の例のように,自分が遺言で何ももらえない場合は,遺言を読んだ日から1年経過すると,遺留分を請求することはできなくなります。
また,亡くなってから10年経過すると,仮に遺言の存在すら知らなくても,遺留分を請求できなくなります。
うーん,遺留分というのは,不思議な制度にも見えますよね。
だって,自分の財産が死んだ後にどうなるかは,自分で全部決めていいはずなのに(形式的には,遺言どおりに財産を承継させることを認めていますが),遺産を承継した人に対して遺留分の請求ができ,その請求に対しては,遺産からお金を出すことになるわけですから,実質的には,「自分の財産の分配を自由に決められる」という亡くなった人の自由に制限を加えているからです。
どうして,こういう制限を設ける必要があるんでしょうねぇ。
「法定相続人(子や妻)の期待を保護する」ということが言われていますが,うーん,ちょっと説明として無理がありますよね。
「期待を保護」って,亡くなる前には全然知らなかったり,全く疎遠になっていたりするパターンもあるわけですよね。
そんな場合に「期待」ってあるんですかね。棚からぼたもちの場合もあるはずです。
そうすると,「期待」というよりは,「子や妻が,一切もらえないというのはおかしいよね」という価値観を理由とするしかないでしょう。
何ももらえないというのはおかしい。
だって,疎遠だったとしても,妻や子どもなんだから。
そして,遺留分というのは,必ずもらわなきゃいけないものでもないんです。
請求しなければ,時効で消滅するからです。
もらいたくないなら,請求しなくてもいいのです。
逆から言えば,たくさんもらった人も,遺留分がある人から請求されなければ,自分がもらった遺産を脅かされることもないわけです。
遺留分というのは,本当によく問題となります。
遺産の総額に争いがあったり(遺産の総額が決まらないと,請求できる遺留分の額も決まりません。),時効期間が短いので時効の成否が争いとなったり。
なかなか難しいので,躊躇せず弁護士に相談してください。
特に,時効期間が短いですからね!
それではまた明日。
では,自分の財産を誰に
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