こちらは後編です。**
「大きい方がいいに決まってるじゃないか!
大きな葛籠(つづら)をおくれよ!」
「いけませんお婆様!大きな葛籠には魑魅魍魎が!」
「ならばポチよ、お前が退治すればよかろう!お前で無理なら息子達に任せればよい。葛籠は両方貰っていくよ。」
「ポチよ!次はどこを掘ればよい?さぁ早くワンと鳴け!」
「お爺様、この一帯に宝はもう…。」
「ならば明日にでも関所を越えるぞよ。支度せい!」
「長旅はお身体に障ります…。」
****
「犬よ、これがお前が望んだ未来か?これがお前の忠義の果てか?」
「『どんな宝も嗅ぎ分ける鼻をください』と願い出た結末がこれか?」
「二人は手前の主です」
「そうだな。婆さんが桃を拾う前からお前は我が家に仕えていた。
お前の主は儂ではなくジジババ達だ。
だから打出の小槌の願いもジジババ達の幸せの為にってか?
犬よ、お前自身は幸せなのか?」
「主人の幸せが手前の幸せであります。」
「…猿は今しがた出ていったぞ。」
「さ、猿が…?おのれ不忠者が…!」
「もうお前達に苦言を提する者は居ないよ。犬よ、いつでもウチに来いよ。」
「いえ、犬は二君に仕えません。たとえ二人を看取った後でも…。」
「二人が亡くなったら桜の木の下にでも埋めてやれ。灰を投げれば冬でも花が咲くかもなあ?掘り返すなよ?」
「ご冗談を…。手前は最期までお二人に付き従います…。」
****
「あらあら、やっぱり二人とも袂を分かったんやねぇ、『犬猿の仲』言うとおりやわ」
「お前もいつ出て行ってもいいんだぞ?」
「嫌やわぁ、ウチがそないなこと思うてるわけないのにイケず言うてからに。」
「儂はお前だけが居てくれたらいい。」
「ウチも桃はんと永遠に寄り添えたら何も要りまへんぇ。
桃はんとウチの願いが同じやと知った時、天にも昇るほどの嬉しかった…。
…それがウチの一番の宝や…。
ありがとうな…。」
「おきじ…儂の方こそ有難う。
『人間になりたい』と言ってくれて。」
「ウチこそ有難う。『おきじを人間にしたい』って言ってくれて…。」
「なぁ、おきじ…。儂達は鬼退治して良かったのかなあ?」
「ウチはお釈迦様とちゃいますぇ。
ただ、桃はんが鬼退治に出てくれなんだら、ウチらは出会いませんでした。ただ天下を取りたがる猿も、老夫婦に尽くす犬も、桃はんを好いたウチも全ては一夜の夢かもしれませんぇ」完