「お暇を頂きたく存じます。」
「猿よ、またその話か!?考え直せ!」
「今回ばかりは本気であります。
どうしても…と仰られるならば、拙者をお切りくださいませ。」
「…。」
「…。」
「わかった、わかった!儂の負けだ!早々に出ていけ!」
「有り難く存じます。これで天下の民が救われます。」
「ふん、『天下の民』とは大きく出たな。つい一月前は『村人の幸せ』だったのにな!
で、猿よ、犬とは話し合えたのか?」
「…いえ…。犬は相も変わらず爺様と婆様に財宝を贈る毎日…。
所詮、拙者とは相容れぬ仲だったのであります。」
「はい、その忠義は見習いたいほどに…。」
「あぁ、だが結局、儂が主ではなかった。
お前もな…!」
「…はい、拙者は村人に雇われた身でありますので…。」
「ふん、猿知恵とは言ったものだ。
お前なら天下を枕に黄金の茶室で最期を迎えることも、雲の上に乗り、妖怪退治も可能だろう。
だが、調子に乗って木に登れば、『カニの息子』の返り討ちに遭う。気をつけな!それと、ウサギに背中を見せるなよ!」
「はい、胆に命じます…。」
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『財産分与』は鬼退治よりも困難を極めた。
持ち帰った金銀財宝は争いの火種となった。
儂という息子の手柄を主張する『ジジババ派』と、村に返還すべきという『村人派』だ。
宝を巡り、年甲斐もなく強欲に強欲を重ねるジジババから儂は距離を置くことにした。
だが、鬼ヶ島にあった本当の宝は金銀財宝ではなかった。
伝説の「打出の小槌」があったのだ。
小槌が叶える願いは3つ。儂は金銀で村人とジジババを欺き、3つの願いは三匹のお供に褒美として与えることにした。
だが…それがまた新たな混乱を招いた。
いち早く願い出たのは猿だった。
猿は村人に送り込まれた儂達の監視役に過ぎなかった。
「天下を統べる知恵を与えたまえ」
と。
人間以上に賢くなった猿は、金銀財宝を元手に村人を恒久的に豊かにしようとした。
商いを奨励し、子供に学問を教え、その挙げ句がさっきまでの問答だ。
鬼が居なくなっても、村人は人間の盗賊に怯える日々が続いた。
自警団を雇うだけでは間に合わないと考えた猿の夢は「天下統一」だ。
それを打出の小槌で願わないところが猿の猿足る所以か、人間の方が猿の猿真似をしているのかは解らない。
だが儂には興味ない。
この若年寄りの隠遁生活をどうか邪魔しないでくれ…。
続