「いらっしゃいませー!…って、セイジ!?来るのが遅いわよ。」
「悪りいな、アビス。
もうすぐ大事な客が来る。今後を決定付ける打ち合わせなんだ。」
「ふ~ん、秘密会議は『議事堂よりも料亭』ってねてね。
あたしの店を選んでくれて嬉しいよ。まっ、この店もあんたがシオンの村で稼いだ資金なんだけどさ。」
「繁盛してるじゃないか。
やはりアビスに店を任せて正解だったな。」
「うん…全部セイジのお陰だよ。
体を売らなくていいカタギの店を経営したいってあたしの夢を叶えてくれてさ…。」
「サラもフィーネも自分の道を見つけた。
アビスの店も軌道に乗って安心したよ。」
「あとはあんたがちゃんと責任取ってオメガを嫁に迎えてやんないとね~?」
「や、やめろよアビス!オメガはちゃんと村で教師の役目を…。」
「わかってるわよ。でもあの娘はずっと待ってるわよ。
世界平和…や魔物との融和なんて壮大な夢もいいけど、近くの女を幸せにしてこそ男の価値ってもんよ?」
「お前が言うと説得力がハンパないな…。
まっ、今夜はその為の重要な打ち合わせなんだが…。」
「いらっしゃいませ~。」
「来たようだな。」
初老と呼ぶには失礼なおよそ50代半ばほどの逞しい身体の男性は無言でカウンター席の俺の隣に座った。
「商売上手な男セイジよ、余を呼び出したからにはそれなりの土産話はあるのだろうな?」
「…って、あんた大魔王!?」
「そう構えるでない武道家の娘よ。
今は店の主なら、注文を聞いたらどうだ?」
「む…確かに。趣味の悪い変身魔法しか使えない大魔王様、ご注文は?」
「お嬢さんのお気には召さないようでしたな。
余を等身大の人間にしてみたつもりだが?」
「悪いわね~あたしは魔族時のあんたの方がまだ紳士的に見えたわね~。」
「率直なお嬢さんだ。なるほど、店が繁盛するわけだ。」
「大魔王閣下、俺の用件は…」
「事を急くでない人を見る目がある男セイジよ。
まずは注文だ。
このエリュシオンの町自慢の果実酒とデビルフィッシュの盛り合わせを。」
「へ~、デビルフィッシュを頼んでくれるなんて流石は大魔王閣下様ね。この町は信仰に篤い客が多くて、いくらフィーネ達が高速馬車で新鮮な魚をシオンの村から届けてくれても、デビルフィッシュだけは余っちゃうのよね~。」
「禁忌の食べ物を避けただけで神の傍に居れた気になるとはなんとも人間らしいではないか?」続