「才蔵、これを受け取ってくれ、俺とフィーネで釣った魚だ。」
「何から何まですまないな、勇者セイジよ。先日は人間から娘達を守ってくれてありがとう。」
「村が復興し、『魔王の手先』の俺が勢力を伸ばせば、あのような衝突は増えるだろうな。
だがそれを黙らせるのは武力よりも経済力。または…。」
「勇者の政治力ってわけだな。
で、今日俺を訪ねた理由は?娘達の様子伺いだけではないだろう?」
「勿論だ。サイクロプスの才蔵さんには、大きな仕事を頼みにきた。かつて『闘将の刀匠』と名を馳せた貴方にな…。」
「『闘将の刀匠』とはまた懐かしい二つ名を…。ダンテさんに聞いたのかい?」
「あぁ、試しに聞いてみれば真っ先に貴方の名を出したよ。
鍛冶屋を探そうと思ったら、こんな身近に居たんだからな。」
「確かに俺達1つ目巨人のサイクロプスは、本来燃え盛る炎を操り、精霊の力を借りて伝説の業物を錬成する鍛冶職人だ。
だが今ではシオンの村を立て直す土木屋に何のようだい?」
「ウチのフィーネ=クライマクスがデザインした舟を、魔力で走る高速挺の動力部分を、あんたに作ってほしい。」
「ほう、魔力で走る舟か。平和な世の中になれば、魔法使いは失業だからな。
天才少女のフィーネちゃんは考えることが違うな。
全く、ウチの娘達もこれくらい勉強好きならな…。
いいぜ、勇者セイジには娘を守って貰った借りがある。
俺でよければその舟を作らせてくれ。」
「ありがたい。才蔵さんの協力を得られれば百人力だ!」
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「ところで才蔵さんよぉ、あんたといい、半魚人の大介さんといい、貴方達は魔王軍に興味はなかったのかい?」
「魔王軍ねぇ…。怪物や魔族は『自由』を愛するんだよ。
しかし、あの『悲劇の敗将』ブリーデン=カークランド将軍がいまや『大魔王』か…。そして勇者セイジが地上の半分の統治権を…。時代は変わったもんだ。リリスに感謝だな。」
「ちょっと待て才蔵さん。その名前は冒険中に何度も聞いたぞ?魔王軍の兵隊達は口々に『リリス』と言っていた。」
「だろうな。俺や大介や、魔王軍の兵隊の大半は『暗黒の地母神リリス』信仰している。大魔王・ブリーデン=カークランドとの忠誠とは別物だよ。
そして俺はセイジさん個人を気に入った。
ブリーデン=カークランド…これが大魔王の本名か…。彼は怪物や魔族達を全て掌握仕切れて居ないのか?
俺に地上世界の半分を与えた理由とは?