「おい、フィーネはまだ部屋か?」
俺とフィーネの初漁は大成功だった。たくさんの魚を持ち帰り、文字通りシオンの村の「新しい船出」を明示する結果となった。
明朝には村人達の漁も始まる。
「世界の半分」を貰った俺には上々の滑り出しだが…。
「フィーネ、いくら船上で刺身をたくさん食べたからと言って、食卓には顔を出せよ!みんなが心配するだろ!」
ドア越しに話しかけても返事はない。
12歳の少女の部屋に無断で入る気はないが、俺は繊細なフィーネの心が心配だった。
「入るぞ!」
と、この「魔王軍領事館」の部屋に鍵がないことを知ってる俺はやや強引にドアを開けた。
フィーネは机に向かって書き物をしてたらしく、俺に気付くと手を止めて振り向いた。
「あっ、セイジお兄ちゃん、丁度良かったです。今、下書きが出来たです。」
魔法使いに取って勉強好きと言うのは1つの才能だ。
魔法理論、魔法体系、怪物や魔族の研究など、仲間の中で最もクールな知恵者でなくてはいけない。
だが前線で魔王軍と戦ってるわけでもなく(いや、今は俺達がその魔王軍なんだが…。)何を勉強してるのかと思えば…。
「私、新しい舟の絵を描いてみたんです!
舟大工見習いの半魚人の大介さんが、自分の舟で漁をしたいって言葉にヒントを得たんです。」
「これは…(現実世界で言う帆船と蒸気船?)」
「サラさんが回復呪文で緑化計画を実行してるのを見て、自分も何か出来ないかと思ってたんです。魔法の力で走る高速の舟をデザインしたんです。
案は二つ。
1つは術者が風の魔法を帆に当てて走らせる帆船です。
もう1つは…まだ雲を掴むような話ですが、舟の両端に水車を付けて…それを年動力魔法で…。」
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ファンタジーな世界には魔法と怪物は存在しても、文明は中世だ。
ここでは俺の現実世界の知識が役に立つ。
「フィーネ、素晴らしいアイデアだよ。
半魚人の大介も驚くだろう。
だが、魔法エネルギーの効率、長時間舟を運航することを考えれば、帆船の方は火炎魔法と冷却魔法を併用で温度差の風を利用する方がいい。
水車を回して舟を動かすのは…火炎魔法で水蒸気の力でピストンを動かしてスクリューを回した方がいいな…。
こういう鉄の筒をだな…。」
「そんな、セイジお兄ちゃん私、魔法は使えますが、こんな鉄の加工なんて無理です。」
確かに。デザインは出来ても誰が作る?鉄の加工と精製は鍛冶屋の分野かな?」
続