俺、火依深 聖児(ひよりみ せいじ)。
自宅でゲームをしてたら画面に吸い込まれて、このファンタジーな世界を救う『勇者セイジ』となった。
四人の女性と一人の魔族、二匹の魔獣と共に魔王軍を討ち果たす冒険をしてきたけど…。
「勇者セイジは大魔王の要求を飲み、世界の半分を貰った」
のだ。
もう4回も大魔王を倒しても、俺は現実世界に帰れなかった。同じ冒険を繰り返すだけだった。
あらゆる可能性を考えて出した結論が、
「大魔王の部下になり、魔物を駆使して、平和な世界を築くことが真の勇者であり、真のエンディング」
…と俺は信じてる。
まぁ、現実世界に帰還出来るとなったら、熱烈に求愛してくれる女騎士のオメガと離れるのは辛いけど…。
その時はきっと新たな道が開けてるはず…と信じたい…。
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「あぁ、セイジお兄ちゃん、引いてます、引いてます。
重いです。」
「よし、フィーネ、ゆっくりだ、ゆっくりだぞ!急に竿を上げ過ぎずに…。おやっさん、左に舵を!
大介さんは右にゆっくり旋回を!」
シオンの村にも人が戻り、漁の舟を出るようになってきた。
王国の人間と怪物の女性とのトラブル。
その出来事に対して心に傷を負ったのがこのフィーネだ。
天才少女魔法使いは、魔物には滅法強いが、人間の男が苦手だ。
生まれながらの魔力が強すぎた為に親に捨てられた彼女。
俺達には心を開いてくれるようになったようだが、まだまだ人間の大人の男は怖いようだ。
今日はリフレッシュを込めて一緒に釣りに来て良かった。
無邪気な笑顔にこっちが元気を貰ったよ。
フィーネ、戦場では頼りになった君だが、平和な社会で生きていけるか俺は心配だ…。
彼女の魔法使いとしての知恵と知識を何とか平和利用出来ないだろうか?
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「え~?今ここで、さばいて食べちゃうんですか~?」
「大物を釣り上げたフィーネちゃんはお手柄だが、この魚は、陸の風を長時間浴びると嫌な臭みが出るからな。
丘に戻るまで持たないよ。
俺達四人で刺身で食っちまうのが正解なんだよ。
おい、大介!お前も上がってこい!」
釣り舟の案内人兼ボディーガードの大介は半魚人で舟大工見習いだ。
「大介さんはどうして人間から舟造りを学ぼうって思ったんですか?」
「俺はあまり遠洋に出れない種族の半魚人なんだ。色んな魚を捕って食いたいなら自分で舟を作ろうって思っただけさ」
舟、魔法。何かアイデアが浮かびそうだ