灯りの消えた屋根裏で、両手で膝を抱えるブリジット。
倉庫代わりに「無用の品」が押し込められた柿本邸の屋根裏。
その雰囲気に違和感を感じずに溶け込む自分に自嘲する。
「私はここに来ることになってたのかなぁ?
仕事の出来ない執事が、ご主人様のご友人の屋根裏部屋を最期の居場所にするだなんて…なんだか私らしいのかなぁ?」
もしも自分が人間でならば、微睡むままに寝落ちしてしまいなぁと思ったが、自分はアンドロイド。
寸暇を見つけては、ただ充電をして有事に備えるだけだった。
「何もしないってのも悪くないかもしれない」
という不条理さを理解出来るほど、ブリジットの人工知能は人間臭くはなかったが、思考が袋小路に迷いそうな頃に自分を呼ぶ声を聞いた。
「ブリジット、降りてこい、今は安全だ。」
主である在原長秋の声で階下に降りる。
あれだけ憎らしいキャサリンが、自分に親切だったグレースの手により遺棄されたと聞いた時は衝撃だった。
しかし、それ以上の衝撃はグレースが感染症にかかっているということだ。
しかもそれは自らの不完全な改造で人間と交わったマーガレットから感染したということだ。
どんなにキャサリンから冷遇されようとも、グレースは親切にしてくれた。
グレースがまだ無事ならば出来る限りのことはしたいと願うブリジットだった。
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「あのう…それでグレースさんは…?」
おそるおそる質問するブリジット。
応えたのは柿本直哉の方だった。
「今は地下の無菌室に隔離してある。
可能な限りの除菌と洗浄はしたが、それは上っ面だけだな…。身体の奥深くにまで侵食したカビと錆びは取り除くことは出来なかった…。」
「そんな…柿も…いえ、直哉は世界一の科学者だと豪語してたではありませんか!?
グレースさんを助けてくださいませ!」
「俺だってそうしたいさ!
だが、あんな厄介なカビは初めてだ!
その生態を調べようとするコンピュータを狙い打ちするかのように感染してくる。
まるで意思があるかのようにな。
だから俺は自分の目と腕と勘でしか、彼女を…グレースちゃんを処置出来ないんだ…。」
「これは医師としての僕の見解だけど…あのカビと錆びは今の所は人間には無害だ…。勿論、外部での接触の範囲だけどね。」
「そうですか、長秋様と直哉のお身体がご無事で安心致しました。」
「あの恐ろしいカビは、アンドロイドの新型の人工細胞を好む性質がある。」
続