グレースが運びこまれてから3ヶ月後
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「まるで時限爆弾だな。」
と、二人の「学者」が互いの「カルテ」に目を通しながら中間報告をする。
医師の在原長秋は、庭師型アンドロイドの人工細胞に感染した「カビ」について報告する。
「最新型アンドロイドの柔らかな人工細胞を好む性質があるな。
一時は人間への集団感染もあるかと、マスコミがパニックを煽ったが、血管内に入るか、高濃度の空気を長時間吸わない限り問題ないな。」
「群衆の心理なんて身勝手なもんさ。一様に調査も研究もせずに『新型は危ない、人間に感染する』だなんて言って、流通量の少ない旧型アンドロイドを買い漁るんだからな。」
「ブリジットと同型がブーム再来となるわけだ。」
「こっちもやりきれない結果だ。
長秋、お前はあの時、愛車のポルシェでグレースちゃんを運んで来て大正解だったな!」
「何、やはり『錆び』の方は自動運転機能にも?」
「あぁ、あの『錆び』はレアアースが大好物みたいだぜ。つまりは『半導体』だな。」
「半導体がどうなんだ?」
科学者の柿本直哉がその方面では素人の長秋に説明する。
「半導体ってのは電気を通す性質と通さない性質の両方を兼ね備えてるから『半』導体なんだ。
電気が通った場合と通ってない場合で『分岐』するから選択肢が増える。これが人工知能の基本中の基本だ。
つまり優秀な頭脳を持つアンドロイドや精密機械ほど…。」
「数多くの半導体と、希少なレアアースが使われてると…。マスコミには到底発表出来ないな。パニックの餌をやるようなもんだ。」
「国家がおおっぴらに『検査に合格してないセクサロイドを抱かないでください』なんて言えるわけないしな。まぁ、ネット上ではもはや公然の秘密だが」
「この件を世間に公表した僕達は『時の人』として注目されたが、それは同時に解決も委ねられた。ここで終わらせたらただのアイドルだ…。」
「わかってる!俺は表の世界に返り咲きたい、お前は医者として一花咲かせたいなんて願ってたが、一応はそれは叶った。
だがそれは…。」
「グレースだけじゃない、キャサリンとマーガレットの犠牲、それにブリジットの献身のおかげだよ。わかってる。」
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地下無菌室
「グレースさん、ブリジットです。お身体をお拭きする時間です。」
「ブリジット…もう明日から来なくていい。
君が危険だ。」
「昨日も同じセリフですよ♪私は大丈夫!」続