「キーーィ!!」
と切り裂くよくなうなブレーキ音が修理工場に響くと、二人の男女が今や遅しと出迎える。
長秋のポルシェから降ろされたグレースが三人に抱えられながら、キャスター付きのベッドに移される。
「地下の手術室だ! 準備はしてある!」
「すまない、柿本、樹乃ちゃん。」
「…ブリジットちゃんは、お前の為にあんなに『患者』になりたがってたのに、まさかお前が『本物の患者』を連れてくるなんてなぁ」
「細かい話は後だ!柿本、君は世界一のロボット工学者のはずだ。
グレースを、僕の大切なグレースを助けてくれ!」
「やれるだけの事はやる。
だがこいつはかなり厄介だぜ。」
「あっきー、ブリジットちゃんなら安心して。
私達が合図するまで、絶対に二階から降りちゃだめ!って強く念押ししといから。」
「すまないな、樹乃ちゃん。
だが、君にはこれからもっと大変な…。」
「へへん、わかってるわよ。女スパイの柿本樹乃!あっきーの為、兄貴の為、ブリジットちゃん、そしてグレースさんの為に、そのマーガレットっていうハウスメイドに手を出した男を洗ってみるわ。」
「あぁ、ありがとう。
グレースの話では、僕の不在中に屋敷を訪れた管理会社の人間らしい。
そいつの通院歴を調べてくれ。」
「OK!ホントに世の中には私みたいな若くて可愛い女の子が暇を持て余してるってのに、なんで男連中は機械の女に走るのかねぇえ?
しかもアンドロイド自身が自分で改造した女なんて。
あたし逆の立場なら絶対無理!」
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地下手術室
「どうだ、柿本。」
「身体の外側にも内側もカビと錆びが酷い。
違法に改造されたセクサロイドは、胎内まで抗菌コーティングされてない粗悪な改造をされた場合が多いからな。
ウチの工場ではそこらへんもケアしてるがな。」
「だが、キャサリンとマーガレットがそこまで劣悪な改造を選択するか?」
「さぁな、ただ良品のセクサロイドは厳密に国家が管理してるってことさ。
なんせ男の体液が直接自分の内部に触れる可能性がある、なんて情報は表には絶対に流れないからな。キャサリンとブリジットの人工知能がそこにたどり着けずに、自らの判断に間違いないと思ったんだろうな。
だがそれにしてもこのカビと錆びの感染力はなんだ?
彼女の身体の金属部分を酸化させ、人工細胞の部分は強力に腐食させている。」
「俺たちには無害なのか?」
「今のところは…な…。」
続