近未来古典小説「やみのなか」9 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

ピノキオは妖精の魔法で人間になりました。
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人魚姫は悪魔のタコとの契約をきっかけに人間になりました。
そして私は…人間の科学者の手によって「涙」を手に入れたのです。

新型アンドロイドを羨ましく思い、旧型の自分を憎らしく思っていた私。
新型になれたらと、どれほど思ったことか。
でも私に施された最初の改造は、新型も旧型も関係ない「泣く」機能だった。
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「終わったぜ。まぁ、世の中には涙を流すアンドロイドなんざいくらでもいるが、それはプログラム通りに、アイセンサーのレンズが埃にまみれたらレンズ洗浄液をオートマチックに流すだけだ。または泣くという人間の真似事を見世物とプログラムされてるかだ。だが、そんなのはボタンを押せばロケットパンチを発射する玩具と一緒さ。
でも、ブリジットちゃん。君は違う。君は自分の気持ち次第で、レンズ洗浄液という涙を流せる。俺の腕前のおかげでな。

「ありがとうございます!柿本様。
もう既に両の目から洗浄液が…。
でも、悲しい涙ではありません。
長秋様が私の為にここに連れてきてくださり、初対面の柿本様が私にまるで人間のような機能を…。」

「ブリジット、旧型なんて関係ない。君は僕に取って大切な家族だ!
でも、君の悩みそのものを代わってあげれることは出来ないんだ。どんなに君が万能であれ、優秀であれ、人間であったとしても、神様じゃないんだ。誰かの試練の身代わりなんて出来ないんだ。
だからこそ…。」

「この涙の意味を、私自身が考えなければならないのですね。
私自身が流した涙に価値を与えなければならないのですね。」

「柿本、君には感謝している。」

「いいってことよ、長秋。けどな、俺に礼がしたい気持ちがあるなら、お前の力で、俺をもう一度表の世界に出してくれねぇか?」

「お前…。自分から僕の父さんの助手を辞めておいて、未だに表の世界に未練があるのか?
生憎、僕は医者だ。総合病院の耳鼻科で働くただの勤務医なんだよ。
父さんが亡くなった今、ロボット工学者の君に力添えを出来るほど権限はないさ。」

「あのう…柿本様は、ずっとこのお仕事を続けたいわけでは?」

「いや、俺はいいんだ。だが樹乃が不憫だ。兄貴がウラの改造屋じゃあ、嫁の貰い手がねぇ。何とかもう一旗って思いはあるさ…。。」

「長秋様、柿本様。私は…私はお二人の力になりたいです」