古ぼけたファーストフード店の雰囲気は、ブリジットの気持ちを後押しした。主人の為に控えるべきであろう言葉。
それを発しない方が良いと人工知能は判断してるはずなのに、ブリジットは切り出した。
「車中の話の続きを失礼します。
本当は…キャサリンの言葉が辛くないわけではありません。
彼女の言葉のトゲは日に日に鋭くなり、私のメインモーターの回転数は上がり、記憶データには不規則に彼女の言葉が割り込み再生されます。」
「それはもう実害じゃないか!
良かった。やはりここの雰囲気なら話してくれると思ったよ。」
「問題はそこじゃありません!
辛いのはキャサリンの虐めではありません。
彼女が新型で私が旧型ということでもありません。
私が…私が長秋様のお役に立ててないということです!」
自分のコーラを飲み干した長秋は、ブリジットの手の中のホットコーヒーをそっと取り、自らの唇に運びながら…。
「やることがないなら毎日を好きに楽しめばいいじゃないか?時間はあるさ。」
「私はアンドロイドです!ご主人様のお役に立てないということが、どれほど辛い毎日か!私は人間で言うなら囚人や奴隷と変わりありません。」
声を荒げ、正常動作を失うブリジットに対し、長秋は機械の様に冷静に…。
「それで?ブリジット本人はどうしたいんだ?
君自身は何を望むんだい?」
核心を突かれたのか、ブリジットは言葉の選択に時間擁し、
「ですから、私には…自動アップデート機能はありません。私は自らを改良出来ません。」
その言葉を聞いた途端に長秋は激昂し、握っていたコーヒーの紙カップを叩きつけようと振り上げたが途中で止め…。
「自動アップデート機能も結局はそういうプログラムに沿って選択して進んでるだけだ!
君は何も出来ないということは、何にでもなれるということだ!」
「私は何になるべきでしょうか?」
「そうだな…例えば…さっき話題に挙がった人間の食事を食べたフリをする『フェイク機能』を取り付けたいと思うか?」
「あれは…デートを楽しむ為の恋人ロボットに備わってる機能ですよね…。長秋様が私にそうしろと仰るのなら…。」
「違う。ブリジット自身はそれは望むのか?ブリジットはどう生きるか?だ。」
「生きる?アンドロイドの私に『生きる』ですか?言語中枢と記憶と思考回路に負荷がかかり過ぎですが…恋人ロボットに改造された私は、私が望む私ではないと考えます。」
続く。