まさか女が先に来ると思わなかったけど…どんな関係?」
快く彼の元へ案内してくれる日本人らしきガイドの女性。
インドのジャイプール近くで直ぐに日本語が話せる女性に出会えたのは心強いが、「貴女こそどんな関係?」とは到底聞けなかった。
「…その…小学生時代の友達です…。。」
「そう、私は高校生から彼を知ってるから、貴女の方が先輩ね。」
高校からの知り合い?それだともう7年もの付き合い?じゃあ、奥さんなのかな…?
二人で一緒にインドに来たのかな?
伸太さんを追ってインドまで来たのに、今はこの女性が気になって仕方ない。
骨川さんにも河井秘書という実質的な公私のパートナーが居るくらいなんだから、不思議ではないけど…。
「彼は今は畑で芋作りに専念してるわ。
去年でゾウの訓練士は私に譲ってね…。」
「あの…貴女は一体?」
「着いたわ。見えるでしょう。あそこで鍬を持ってるのが野比伸太さんよ。」
畑を耕すその青年は、細身ながらも、力強い動作で鍬を降り下ろしていた。
足はしっかりと大地を踏み締め、確かな彼の成長が、流れた歳月を呼び起こした。
しかし、「伸太さん!」と遠くから叫ぶのを躊躇してしまったのは、彼の背に背負われた、小さな赤子の姿だった。
可能性を考えなかったわけではなかったが、決定的な事実を目の当たりにして、脱力した私はその場にしゃがみこんでしまった。
傍らの彼女が何を察したのか聞くのは怖いが、右手を差し出して私を引き起こしながら囁いてくれた。
「早とちりねぇ、安心しなよ。
私の子じゃないわ。
あの子の褐色の肌をちゃんと見て。
捨て子を私達で育ててるの。
私、月形まる代。野比伸郎先生の講演会がきっかけでインドまで押し掛けの弟子入りしちゃったの。
だから伸太さんは兄弟子ってかんじかな?」
…正直「良かった」と安心した自分に腹が立つ。
何年も伸太さんを本気で探そうともしなかったくせに…。
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「し、静香ちゃんなの?ゆ、夢じゃないよね…?」
「お久しぶりです。
伸太さん。
ええ、源静香です。
会えて嬉しいです。」
「まる代、プサディーを頼む。二人で話したい。」
