ブルーキャット 第15話 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「中学に入って直ぐに、母さんが倒れてね…。」

室内に案内され、チャイというお茶が出される。
想像以上に大きな家に驚いたが、ゾウタクシーや芋畑関連でたくさんの従業員やその家族で暮らしているからだと直ぐに理解した。
今、私にお茶を出してくれた女性も、まる代さんと交代でプサディーちゃんを育ててるんだろうなと思うと不思議な安堵を感じた。
そして伸太さんの口から「ママ」ではなく「母さん」という言葉が出たことに確かな時の流れを感じた。

「お母さまが?はるばるインドまで来て畑仕事をしてるのは、それがきっかけ?」

出来杉さんとクリスティーネ剛田さんの事を案じれば、じっくり身の上話を聞いてる暇はなく、伸太さんにもの周囲にもいつ危険が迫るかも知れないのに…。

「そうだね。父さんは片岡の実家に母を預け、自分も時間の都合が着く部署に配置転換を希望したよ。」

「急に転校して行ったのはそういうことだったのね…。」

「片岡の家には感謝している。
でも、僕も同級生よりも早く将来を意識するようになったよ。
なんとなく合格しただけの高校に惰性で通うよりも、伸郎叔父さんを慕って思い切ってインドに行こうって。」

「…まる代さんは、まさか貴方を追って?」

「まさか!彼女は高校の講演会に来た伸郎叔父さんの話に感激したけど、ご両親との約束で卒業してから海を渡ったよ。
まる代は今も言って るよ『あの講演会の時の、助手の伸太さんの頼りなさを見て、私でもゾウ使いになれそうって思った』てね。」

「ちょっと!私の居ない所で悪口はヤメテよ!
ほら、プサディーが泣いてるわ。私より貴方の方が泣き止ますの上手いから代わってよ!」

「わかった!静香ちゃん、ごめん後で。」

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「…何の目標もなく、親やおじいちゃんが決めた相手と結婚させられるくらいなら、インドに…って甘い気持ちだったのは否定しないわ。
食べ物、医療、衛生、教育…自分がどれだけ恵まれていたか、ここに来て思い知らされたわ。
でも、『何も持ってなくてもいいんだよ』って教えてくれたのは伸郎先生よりも、伸太さんの方ね。
私ね、実は小学生の頃から伸太さんを知ってたの。」

「小学生から!?」

「驚かないの。
『隣町の野比君は遅刻記録に0点記録の更新中』って悪意のある噂の類いよ。高校に出席しないのも勉強についていけないからって勝手に思ってた。でも彼の生き方を知るほど自分が恥ずかしくなってきたわ」