**萌慎艶戯塾・保健室**
「痛い!痛い!
治美先生、もっと優しく…。」
「ごめん、ごめん。
捻挫の手当てなんて、久しぶりでさ~。」
「全く、大した常駐医様だよ。」
「それにしても、最初の授業でマツリちゃんが保健室に運ばれてどうすんのよ~!」
「私では『本気』になった二人の塾生を止められなかった…。」
足首に巻かれた包帯に視線を落とし、無力感に陥るマツリ。
自分の授業そっちのけで、一号生の目暮樹里亜と赤峰摩亜耶は互いを罵り合い、取っ組み合いのケンカをはじめた。
古河すへ子教頭が偶然見回り中だった為、二人は引き離され、教官室に連れて行かれ大事には至らなかったのだが…。
「人間とは非力なんだな…。」
「それは否定しないわ…。
でもね…。」
「でも…?」
「マツリちゃんを連れてきた塾生に聞いたわ。
二人を止める前に一人で転んで捻挫したんでしょ!?
妖怪関係ないし!
ただのドジっ娘だし!」
「う、うるさい!…。慌ててたんだ…。」
「はいはい、妖怪の力を解放しようとした二人を見ても止めに入ろうとした『勇気』は誉めとくわ。
でも、二人の妖力に巻き込まれてたら、こんな怪我じゃすまなったわよ!
で、そもそもの原因はなんだっけ?
塾生達もパニクって話てたから、こっちは全然頭に入ってこないんだけど…。」
「そうだな、治美先生も知っててくれ。」
**10分前 一号生教室**
(樹里亜)「はぁ、結婚が嫌?
人間社会で働きません?
でも、塾の卒業だけはしますって?
けっ、未来の女王蜂様には『庶民』の苦労とはかけ離れてんな!」
(摩亜耶)「何よ!私だって出来るなら逃げ出したいわよ!
自分の人生を自分で決めたいわよ!」
(樹里亜)「お前は結局、村や掟のせいにして、楽な方を選びたいだけじゃねえか!」
(摩亜耶)「言ったわね!楽な方を選んでるのは樹里亜ちゃんじゃない!
一族の『お姫様』になれないのは『ガサツ』だからでしょ?いつも『奪われた王冠』のせいに…。」
(かごめ)「いけません、赤峰さん!!樹里亜さんにその話は禁句…。」
(樹里亜)「うっせ!だからあの時、壁越えを…。」
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「そっかぁ、樹里亜さん無理に明るく振る舞ってるなぁとは思ってたけど…。」
その時、ドアをノックする音に扉を開けると、そこには涙で目を腫らした赤峰摩亜耶が居た。
「教官!私の本当の悩みは、婚約者の彼が人間だからなんです」続