「あの…五名ですけど大丈夫ですか…?」
恐る恐るドアを開け、グラスを磨く男性店員に尋ねる。
今日初めて知り合った五人で、まさか噂の
「喫茶ロビンフッド」
を訪れるとは誰も思ってなかっただろう。
しかし、男性は…。
「…申し訳ありません。
来店履歴の無いお客様は水曜日のみなのですが…。」
「あぁ、やっぱりネットに書き込まれてた情報は本当だったんだ…。」
「え?貴女も『奈落る』検索してたの?」
「ううん、私は『妖グル』サイトだよ。」
「だが、貴女達は運がいい。
今、貴女達を『待っていた』お客様が居ましてね。
そのお客様のお話を聞くというなら、お席に案内します。」
「お話って…先生どうします?」
ゆかりは雇い主であるマツリに判断を任せることにした。
秘書としては当然の振る舞いだった。
「他の客の話を聞くか…。限りなく怪しいな。
胡散臭いマルチ商法か宗教の勧誘か?」
「それは直接、お客様達がお話を聞いて判断してくださいませ。」
「でも…。」
皆が迷う中で、入ろうと真っ先に言ったのは一反もめんのコスプレをしていた女性だった。
「大丈夫よ!私は弁護士よ!しかもクーリングオフは得意分野だから任せてよ!」
一番驚いたのは狼女のコスプレをした女性だった。
自ら彼女の発言から「弁護士みたい」と言ったからだ。
「綿貫倫恵(わたぬき ともえ)よ。自己紹介は座ってからにしよ?」
「ではお決まりですね。
ブロッケン、お嬢様方の案内を。
テリーはあの方にご連絡を。」
スタッフに指示を出す様子と、ハリソン=フォードの様な落ち着いた雰囲気から、彼が店長なんだな、と誰もが思った。
五人は遂に喫茶ロビンフッドの敷居をまたいだのだった。
「ご注文は?
本日は良質のアールグレイを仕入れております。」
ブロッケンと呼ばれる軍服を着た小柄な青年が席に案内して注文を聞く。
中は意外と広く、犬や猫を連れた客達が楽しそうに話していた。
「じゃぁそれください。」
「私も」
「私はエスプレッソを」
「パフェも扱ってます?」
「あ、いいな私も」
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「私達が話を聞く人って来ないね。」
「気を遣ってくれて、私達同士で暫く話す時間を使ってくれてるかもな。」
注文した品が届き、その味に皆が会話を忘れるほどだった。
だが、五人はこの店にまつわる都市伝説を忘れていなかった。
『ロビンフッドは願いが叶う場所』だ