「私だ。直ぐ来い。」
一日に何度もこの様な電話を受けることにゆかりも慣れていた。
議員秘書兼運転手とはそういうものだと、ため息の後は割り切ったつもりだが、先生様のプライベートで呼びつけられ、しかも予定が遅くなるならまだしも、早まるのは勘弁してほしい、切に思う古瀧(ふるたき)ゆかりだった。
「…あの、先生…。約束の時間よりまだ二時間も早く…。それにお電話の時は、お乗せするのはお一人様だけだと…。」
会場を後にし、ハンドルを握るゆかりは突然の『同乗者』に困惑していた。
「ごめんね~、私達まで相乗りさせてもらって~。この一反もめんちゃんがフランケン男に絡まれてたからさ…。
逃げ出した時にタイミング良く貴女の車が来たからさ…。」
茶色い毛皮の着ぐるみの女は、男に飛び蹴りをした武勇伝を自慢気に語っていたが、助けられた側の女は有り難迷惑な様子だった。
「い、いくら私を助ける為とはいえ、貴女のしたことは立派な傷害です!それに私の許諾なく車に押し込むことは誘拐です!
これじゃ『リアル狼女』じゃないですか。」
「助けてもらって弁護士みたいなこと言わないの!
ごめんね、あたし女子校の体育教師だから、ついつい先に手が…。」
ハンドルを握るゆかりはバックミラー越しに、毛皮の着ぐるみが狼女のコスプレだと漸く納得した。
そして白い着物の女はお岩さんか何かの幽霊女と思ったが、話を聞いて一反もめんと聞いて苦笑するしかなかった。
これなら助手席に座る女性の大荷物に『ぬりかべ』のコスプレ衣装が押し込まれてるのも納得だった。
「…あの…先生、それでどちらに向かいましょう?四名様をお屋敷にお通ししましょうか?」
ゆかりの質問に、冴木マツリはヴァンパイアのマントをたたみながら答えた。
「お父様が居るなら屋敷は駄目だ。
そうだな、この辺りに遅くまでやってる喫茶店はないか?
せっかく出会えたんだ。
せめてゆっくりお茶しながら自己紹介くらいしたいな。」
「そうですね、私も妖怪談義を楽しみにして参加したんですから、ちょっとお喋りしたいです。
運転手さんもどうですか?」
助手席の堅城治美(けんじょうはるみ)は優しい気遣いを忘れてなかった。
しかし、五人の女子は肝心のカフェに心当たりがなく暫く迷走してると…。
「ねぇ、今どこ走ってるの?」
「はい、先ほど四谷に入りました。」
「…。」
「…。」
『喫茶ロビンフッドなんて噂よね?』続