「あの…楽しんでますか?」
声をかけてから、我ながら凡庸な質問だな、と治美(はるみ)は後悔した。
退屈そうに空いたグラスに残った氷をカラカラと回す手を止め、相手は振り向いた。
「見ての通り…さ…。
君と同じくガッカリ感満載だよ。」
男口調で返答があったが、相手も女性である。
タキシードにマント、ファンデーションで青白いメイクをした容貌は異様に思えるかもしれないが、ここでは誰も疑問に思わない。
何故ならコスプレパーティーの会場だし、治美の方も、一畳ほどの扉から顔だけ出した様な姿で声をかけたからだ。
「ですよね~。
折角、妖怪好きの妖怪好きによる、性別を越えた妖怪談義を期待して参加したのに、結局…。」
「あぁ、ただの婚活パーティーだな。
コスプレと素性がわからんことで余計に性質が悪いな。」
積極的に出会いを求める男女は妖怪もコスプレもどうでも良かった感じだ。
耳飾りを付けるだけで「悪魔」、羽付きリュックを背負うだけで「天使」というクオリティの低さにもガッカリだが、妖怪そっちのけで、リアルに職業や年収を尋ね合う様子にうんざりしていた。
「私…場違い過ぎますよね…?」
「チャイナドレス着ただけで『キョンシー』アピールする女に対して、君は真剣に『ぬりかべ』で参加したんだから確かに『場違い』だな。」
退屈そうにしていたタキシード女が笑った。
「それ、どういう素材だ?」
タキシード女は治美のぬりかべコスプレの方に興味を示した。
男性的な容貌に同じ女性から声をかけられたが、孤高の雰囲気に気後れした男性は彼女を遠くから見るしかなかった。
「あ~、聞いてくれてありがとうございます!
これ、シーツに段ボールと突っ張り棒で補強してるんです。
発泡スチロールを使用するバージョンは持ち運びが不便で…。
今日を楽しみにしてきたのにガッカリです…。」
「私もだ。
見識溢れる話が聞けると思い、このタキシードを新調したんだが無駄に終わったようだな…。」
「無駄じゃないですよ!貴女のドラキュラコスは綺麗です!」
治美はコスプレと妖怪好きの感性が合うと思い、素直に褒めたつもりだが…。
「ドラキュラではない!
ヴァンパイアと呼べ!」
と、言われてしまった。
「……。」
「すまない。」
「いえ、いいんです。
ねぇ、どこかほかの店に行きません?」
「そうだな、私は冴木マツリ。」
「堅城(けんじょう)治美です。」続