「その人」は現れる様子もなく、席上の五人は各々に自己紹介をはじめていた。
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「じゃあ、まず私からね。
堅城治美(けんじょうはるみ)
職業は内科医よ。と、言っても開業医じゃなくて勤務医です。
今回の妖怪コスプレパーティーなら『女医』って言葉に反応しないだろうと思って、気合い入れて『ぬりかべ』になったのに残念です…。
あっ、好きな妖怪もぬりかべで~す。」
医者というイメージらしくない治美の気さくな態度に皆話しやすくなり、初対面の緊張は打ち解けていった。
「綿貫倫恵(わたぬきともえ)です。さっき軽く言ったとおり、職業は弁護士で、民事中心に扱ってます。好きな妖怪はこのコスプレと同じく一反もめんです。」
「へ~、本当に弁護士だったんだ~。
私は大月教子(おおつきのりこ)中学の体育教師よ!
好きな妖怪は狼男。ワーウルフより、ウェアウルフって呼ぶ方がすきね。」
「私は冴木マツリ。職業は…色々と抵触するかもしれないが…区議会議員だ。素顔と名前を明かしてもピンとこないのは…地方議員なんてそんなものだな。好きな妖怪はコスプレと同じくヴァンパイアだ。ドラキュラじゃないぞ、ここ大事。
ゆかり、次はお前だ。」
「ええ?古瀧(ふるたき)ゆかりです。先生、私はあの…パーティーにも参加してませんし、先生の送迎にここに来ただけで…。皆様とお茶が出来るなんてそんな…。」
気弱に振る舞うゆかりに、体育教師の教子はいたずらっぽく、強気な口調で語りかけた。
「ふふん、ゆかりさんだっけ?
あの店長さんは『私達を待ってる客が居る』って言ってたわ。
最初から運転手の貴女もカウントされてたかもね。」
次に治美が医者らしい観察眼を見せ…
「それに、教子さんや倫恵さんがこの店の都市伝説を話してる時、貴女も頷いてたわね?ゆかりさんも喫茶ロビンフッドを知ってたんだ?」
「はい、私も妖グルで検索したことあります。」
「フフ、近くに居ても解らないものだな。
じゃあ、ゆかりも私達の仲間じゃないか。
お前の好きな妖怪は居るのか?」
「ええと…皆様ほど詳しくありませんし、妖怪というか…職業柄ドラゴンの研究は趣味と実益を兼ねて…。」
「趣味と実益?議員秘書の運転手が?」
「いえ、先生の秘書というのはアルバイトで、普段は恐竜の化石を調べる考古学者の見習いです。収入に結び付かない仕事なので、幼なじみのマツリちゃんの誘いで…あっ、すみません!」
続く