四番の真山先輩が出塁して無死一塁。
打席は五番秋成だ。
逆転のチャンスはここしかない!
頼むよ、僕の仇を討つって言葉をバットで証明して!
祈る様な気持ちで打席に立つ秋成を見守る。
先輩も一年生も、マネージャーの東瀬も気持ちは同じだ。
皆が秋成に期待してる。
無表情で自分勝手でワガママで上から目線な秋成だけど、その野球センスは本物だ。
秋成を気に入らない者も居るだろうさ。
でも、誰もが秋成なら何かしてくれるんじゃないだろうか?と思ってるはずだ。それは相手ベンチさえも…。
「ファール…。」
ストレートを打った打球は一塁線に切れてファール。
切れてもその鋭い打球は相手の脅威だ。
いいぞ、これが中に入れば一気に長打だ。
「ファール!」
ツーシームを引っ張って三塁線ファール。
うん、速度の無いツーシームを引っ張れることの証だ。流石は秋成だ。
「ファール!」
またストレートを一塁線にファール。
……。
……。
おかしい。
ストレートに振り遅れるでもなく、ツーシームに空振りするでもなく、速い球は無理せず流して、変化球は力強く引っ張れている。
秋成はまるでどちらにもタイミングが合ってるのに、わざと打たないみたいだ…。
わからない…何が狙いなんだ?と、思った時、
「ピッチャー、いや、ショートだ!ショート!!」
13球目を振り抜いた秋成の打球は、ピッチャープレートの右端に直撃した!
不規則に跳ねた打球は不運にも相手遊撃手の真正面に飛び、グラブに吸い込まれるようなショートゴロになり、二塁、一塁と渡り、無情にも併殺打となった…。
一気にベンチのムードが沈む…。それだけ秋成の影響力は大きいのだが…。
「いける!これでこの試合は貰った。
あのピッチャー以上のピッチャーが居ないならな…。」
と、秋成一人だけが落胆していなかった。
その不敵な笑みに過剰に反応したのは東瀬だった。
それは東瀬が部活を休む前の怯えた表情と全く同じだった…。
僕は東瀬にも秋成にも話しかけられずに守備に付いた。
秋成はショートのポジションからセカンドの僕に…。
「慎、次の打席で『アレ』をやってみな!
必ず成功する…。」
「アレを?
秋成、さっきの君のダブルプレイと、君が教えてくれて、僕が練習してきたマル秘打法と関係あるの?」
「さぁな、布石にはなる…。」
マウンドの真山先輩の粘りと、僕たちの堅実な守備で三者凡退!四回終了0-1続