五回の表
貴川西0-1山大付属
試合が後半に向かおうとする中、僕たちは1点が遠かった。
八番真喜志先輩が空振り三振で二死走者無し。
打順はラストバッターの僕だ。
一打席目はチャンスに三振したからな…。
今度こそ…。
バッターボックスに向かおうとする時、秋成は再び僕に「アレをやれ」
と言った。
わかってるよ。既に三振してる僕には何か「揺さぶり」を掛けないと突破口は開けない。
しかも二死ランナー無しで九番の僕なら、「奇策」に出ても最もリスクが少ないだろうさ。「奇策」が「奇行」に、ただの「余興」になりそうだけど…。
相手は滋賀県を代表する投手の都倉さんだ…。
今さら失うものはない…。
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バットを目一杯長く持ち、可能な限りバットを立てて構える僕。スタンスは狭めでややクローズ気味に…。
左の長距離砲として僕が敬愛する小笠原道大選手の構えだ。

一打席目と明らかに構えが違う僕に、山大付属の捕手は直ぐに気付いた。
「二死だからって、一発狙いか?
ちっちゃな僕ちゃんなら、身体を屈めて四球狙いのがいいんじゃないか?」
「アドバイスありがとうございます、お礼に僕がホームラン打ったらバク転でのホーインを披露してあげますよ。」
「ガキが…都倉!」
「キャー!」
「ボール」
挑発に挑発で仕返せば、一球目に顔近くのビーンボールが来ることはわかってた。
わかってれば避けられる。
大きく避けずに、軽くかわして余裕を見せる…。
「ストライク!」
インコース低めの速球を大きく空振り。
あくまで僕は長距離砲のつもりだ。
「ストライク!ツー!」
同じくインコース。
よし、ここまでは完璧。
これで相手は外角低めにツーシームを投げてくる。
バットを長く持ったのは、遠い所にも当てる為だ。
いくぞ…!
「魔技・フォルテシモ!」
左手はバットに添えるだけ。
思い切り大振りした「振り」でわざと三塁手の前に弱い打球を転がす!
バットに当たった瞬間、長打を警戒した相手サードは、一歩下がってしまう!
だが本当は片手で打った弱い打球だから、定位置より前にダッシュしなければならない!
スタートが遅れたサードは、球を掴んだ頃には一塁を駆け抜けた僕を見送ることになる!内野安打だ!
秋成!ドカベンの殿馬選手!ありがとう!
僕はやったよ!