日傘を差しながら現れた一人の女生徒は、私と玉野ファンクラブの女子達に視線をやり、静かに微笑んで着席した。
「ごきげんよう」なんて言葉を自然に言いそうな雰囲気を醸し出してる本物のお嬢様だ。
同じ学校の制服を着てるのに、何でこんなに違うんだろう?
「おはようございます!中ノ瀬先輩」
今まで試合そっちのけで玉野君ばかり見てたファンクラブの女子達も一気に緊張が高まる。
普段偉そうな早乙女さんも彼女の前では別人の様に大人しい。
「皆様ごきげんよう」
うわぁ、ホントに言った。
はい、中ノ瀬先輩は、エース真山先輩の彼女にて、我が貴川西高校の生徒会長です。
頭脳明晰、容姿端麗の典型的なマドンナと、エースで四番の理想的なカップルのはずですが…。
我が校の女子なら、その涙のエピソードは誰も知ってます。
「あら、丁度匠(たくみ)さんの打順のようでよかったわ。」
「中ノ瀬先輩。真山先輩の次を打つのが我らが玉野秋成なんですよ!
見てくださいよ、ネクストバッターサークルで構えるあの一年生とは思えない雰囲気!
私達、あの冷たい目線と立ち姿にクラクラ来ちゃって~」
「貴女達が匠さん目当てじゃないなら一安心ですわ。
まぁ、確かに野球に関係なくファンクラブが出来そうなルックスですわね。
一年生の頃ってそういうものなのでしょうか?」
「それが違うんですよ先輩!
そりゃあ、私達もきっかけは玉野君の見た目でしたけど…。
あ~打ったー!」
グランド内の試合はスタンドの私達に関係なく進行し、真山先輩は第一打席のリベンジとばかりに、都倉さんの球を打ち返した。
フラフラと上がった打球は山大付属の丁度誰も居ない場所へ…。
「落とせー!」
「捕るなー!」
と、上品さの欠片もない?私達の祈りが通じたかの様なヒット!
やりました!四番真山先輩のヒットでノーアウト一塁です。
「…匠さんが嬉しそうに話してましたわ。
活きのいい一年が入ったって。
今のヒットも、去年のチームなら無理して二塁まで走ってましたわ。
…よほど次の玉野君を信頼してるのね…。」
「そうですよ中ノ瀬先輩!
もう今までみたいに真山先輩の孤軍奮闘じゃないです!
我らが玉野君がやってくれますから!」
「匠さん、山大付属や王者・楽信学苑の推薦を断ってまで私と同じ学校に進学すると決めた時は、お互いの両親を巻き込んで大騒動になりましたけど…貴方に選ばれて私は幸せです」
(続く)