僕たちに許された二重殺 21 試合編7 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

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このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
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僕は高めのつり球に空振り三振した。
同点、または逆転のチャンスに凡退してしまった…。
三塁ランナーの秋成をホームに還せなかった…。

肩を落としベンチに戻る僕に、ネクストバッターサークルで待ち構えていた須永先輩が僕の背中を叩く。

「胸張れ!金城。
三振したお前が今出来ることは、ピッチャーの都倉を調子に乗せないことだ!
下向くな!『次は打ってやる!』くらいの気持ちで相手を睨み付けてみろ!」

須永先輩の言ってることはわかる。
気持ちで負けたら駄目だ。

ベンチは誰も僕を責めなかった。
マネージャーの東瀬は
「惜しいファールだったよ慎太郎!」

と言ってくれ、
エースの真山先輩は

「真喜志、金城の凡退が参考になった。次の回からのリードだが…。
都倉の真似はしたくないんだが…。」

「…真山、それだと球数が…。
いいのか?」

「力を出し惜しみして勝てる相手じゃねえだろ?
1点取られたし、うちはリリーフも充実してるだろ?」

真山先輩はまるで僕の三振から山大付属の攻略のヒントを掴んだみたいだった。

どういう組み立てをするのか気になったけど、先に秋成が僕に近付き、僕のグラブと帽子を渡してくれた。
秋成は僕の顔を見ずに先にベンチを出ようとした。
そしていつもの低く静かなトーンで…

「俺が仇を討つ…。」

と呟いていた。
****
二回の裏
相手は五番から。

真山先輩は相手ピッチャーから何のヒントを得たのか?
との疑問は最初の一球で明らかになった。

「危ない!」

両校ベンチとスタンドから悲鳴が上がる。
明らかに相手打者の頭を狙ったビーンボールだ。

相手のバッターは大きくのけ反り、当たりはしなかったが、場内は騒然となった。
帽子は取らず、ツバの部分を軽く触るだけで謝ったアピールをする真山先輩。
相手打者の怒りの形相がこっちにまで伝わりそうだ。
でも…。

「しまった!」

「セカン!イージー!イージー!」

打ち気にはやった相手は、弛いチェンジアップを打ち上げてしまって内野フライ。
まんまと作戦通り、ご愁傷様といいたけど、セカンドに飛んだこのボールを僕が捕らなきゃ意味がない。
落ち着け…ただの飛球だ…。

「慎、両手だ!右手を添えろ!」

僕の背中にショートの秋成の声が聞こえる。
この声を聞くだけで僕は落ち着けるんだ…。

「アウト!」

「ナイスキャッチ!セカン!」

平凡なフライだけど、僕は捕れた、捕れたよ