短剣を投げつけ、舞台に上がる私。
「パシーン!」
悔しさと腹立たしさが込み上げ、感情のままに不忠を覚悟で殿下の頬を平手打ちしてしまった。
「…全て仕組まれていたのですね…。
カイザー丞相とアンナ、そしてここに居ないロイとエマも含めて…。」
「邪魔をしないで貰えませんかな。
これはハイネ王子たっての希望なのだよ。
さぁ、私の心臓はここです。
次こそは間違いなく…。」
額から流れる血を拭いもせずに自分を刺せと繰り返すカイザー丞相。
これが「市民の希望」 「大義の為の犠牲」だということはわかる。
けど…。
「ガハッ…。」
殿下の動きに視線を奪われた所に油断があった。
低い位置から懐に一足跳びで入り込み、みぞおちに肘打ちをお見舞いした。
剣が使えない時の私の隠し技だ。
「貴方のする事はいつも回りくどい。
…話が済むまで眠ってください。
決して以前に胸を触られたことの仕返しではありませんので…。」
「騎士団長様は流石の腕前だね。
冬から春まで引きこもってなんて信じられないくらいだ。」
「それを言うな、アンナ!」
「リディアの乱入で『お芝居』がメチャクチャだよ。
ジョンとハイネ殿下。
二つの国のトップが同時に最期を迎えるには最高の『舞台』だったのになぁ。」
「…学の無い私でも『民主化』の尊さくらいはわかっているつもりだ。
そちらの国でミネルバ王女が居なくなれば、民主化運動が活発になるのは自然だろう。
隣の我が国に波及するのもわかる。
だが、演劇の『手違い』でハイネ殿下に真剣を握らせ、『隣国の大臣殺し』の罪を着せるなど、私が許さない!」
「リディア、わかってくれ。
余命短い僕が愛する市民の為に出来ることなんて限られている…!
民主化の波の中で大衆は僕を処刑したがるだろうさ…。
ちょうどいい罪名が欲しかっただけさ…。
そしてアンナ先生は『父の仇討ちをしないのが本当の民主主義』と、出生の秘密を公表し、市民投票で大統領に名乗り出るはずだったんだ…。」
「投票で選ばれるリーセ王国の指導者にアンナが…。
そうだったのか…。」
「ジョンは僕の幸せの為になら喜んで犠牲になるつもりだったんだ…。
こんな風でしか愛情を表現出来なくても僕の父さんなんだよ…。」
「殿下、アンナ。
死は希望でも逃げ場でもありません。
スールシャール王国の王室と血統は私が絶やさせません!
丈夫で健康なお世継ぎを私が必ず生み育てます!」続